東南アジアPEの2024年第1四半期 好調な出足か苦戦中か?

東南アジアPEの2024年第1四半期 好調な出足か苦戦中か? 注目セクターはヘルスケアと金融サービス

東南アジア株式新聞 2024年5月31日



たまにはプライベート・エクイティ(未公開株)市場の話をしてみる。

企業買収型のファンドやベンチャーファンドの市場のことだ(この記事では、買収ファンドのことを言っている)。


東南アジアのプライベート・エクイティ(PE)市場に関する2024年を展望する最近のリポートを読むと、第1四半期は好調な出足なようであったようであり、いまだ苦戦中であるようでもある。


共通した指摘もある。

東南アジアPEで注目するべきテーマは、ヘルスケア、金融サービス(フィンテック・インシュアテック)、コンシューマーのセクターであることだ。


他の地域と同様に、ファンドにドライパウダー(未使用の投資資金)が積み上がっており、2024年の市場環境によってはPE投資が活発化する可能性がある。


東南アジアPEの第1四半期、勢いを伴うスタート


まず、EYマレーシアが5月28日に発表したEYの四半期プライベートエクイティアップデート:ASEAN(2024年第1四半期)。

Good momentum for private equity in Southeast Asia in Q1 2024 | EY Malaysia


(プレスリリースの要約部分)

  • 2024年第1四半期、東南アジア全域でPEが支援したディール17件に5億8,600万ドルが投入され、前年比でディール額は31%増、ディール件数は89%増となった

  • 不動産取引はPE投資の33%を占め、ヘルスケア(28%)、金融サービス(23%)がそれに続いた

  • 2024年第1四半期の東南アジアにおけるPEが支援したディールは、2023年第1四半期と比較して約57%減少し、資金調達も低迷したまま


EYアジア太平洋プライベートエクイティリーダーのルーク・ペイス氏のコメント:

「東南アジアでのディール活動は2024年第1四半期に活発化し始めました。

ヘルスケア、不動産、インフラなどの特定の分野で、多数の新規取引が開始されています。

2024年の東南アジアの推定国内総生産(GDP)成長率4.6%、失業率の低下、観光業の大きな貢献を考えると、消費者心理も改善しており、年間を通じてコンシューマー・セクターのディールが増えると予想しています


EYのリポートでは、第1四半期に、資金調達とエグジット(投資の出口)活動が低迷したことも指摘している。

ただ、エグジットの不足と、過去数年間のこの地域への投資額の高さが相まって、セカンダリー市場(ファンドや他の投資家がファンドの持ち分を売買する市場)の成長につながってる、とも言う。


ペイス氏の締めのコメント。

「2024 年の残りの期間、セカンダリー取引、少数株主による買収、転換社債または仕組み投資、プラットフォーム買収などのオーダーメードのディールや独自のディール構造への重点が強まると予想されます」


ヘルスケア、フィンテック、コンシューマーが東南アジアPEの注目テーマ


米ベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)が5月30日に発表した『Southeast Asia Private Equity Report 2024』は、それほど楽観的ではない。


(プレスリリース)

Themes to watch in SEA private equity market | Bain & Company


(要約部分)

2023年の第2四半期と第3四半期は第1四半期よりも成長が見られたが、東南アジア(SEA)のPE市場も世界的に見られるディール活動の減速から逃れられなかった。


昨年のSEAのディール総額は、過去5年間の平均(2018~2022年)と比較して39%減少して90億米ドルとなり、ディール件数は同24%減少した。


過去数年と同様に、グロース投資がこの地域の取引フローの大部分を占めた。


シンガポールとインドネシアが引き続きディールの大部分を占めている。


2024年第1四半期にはディール活動が落ち込んだが、ディール成立額は14億米ドルで、2023年第1四半期と同じ水準に戻った。


シンガポールを拠点とするベイン・アンド・カンパニーの東南アジアPEプラクティスの責任者であるウスマン・アクタル氏のコメント:

「ここまで、東南アジアでのディール、エグジット、資金調達にとって厳しい1年でした。当社の業界調査の結果は、これらの課題の背後にあるいくつかの要因を示しています。GP(ジェネラル・パートナー)とLP(リミテッド・パートナー)たちが最も懸念している分野は、厳しいエグジット条件、取引機会の不足、不確実な経済見通しです」


ベインのリポートでは、東南アジアのPE市場で注目すべき主要なテーマとして以下を挙げた。


  • 代替資産クラスの台頭:アジア太平洋に焦点を当てた大規模なインフラストラクチャー・ファンドとクレジット・ファンドの増加。

  • ヘルスケア:2023年はヘルスケア取引の最高潮を迎え、プロバイダー分野でのいくつかの大規模な取引により、東南アジアの取引額の24%を占めた。

  • フィンテック:テクノロジーとインターネットの幅広い減速にもかかわらず、フィンテックとインシュアテックは2023年の東南アジアの主要な投資トレンドだ。

  • コンシューマー(消費財): 東南アジア市場では人口、都市化、一人当たりGDPが引き続き増加しており、コンシューマー・セクターでPE投資が活発化する。


アクタル氏の締めのコメント:

「機会プールの規模を考えると、東南アジアのPEはGDPの割合で浸透が不十分なままです。今後、東南アジアのPE業界には、ディール活動の復活を解き放つためにいくつかのことが必要だと考えています。エグジットの停滞に対処するには、古い資産から撤退するために積極的な措置が必要です。証券取引所は、速度、流動性、深さを構築する必要があると考えています。また、PE所有資産の運用改善に目に見える牽引力が必要です」



最後のコメントは慎重な言い回しになっているが、大胆に解釈すると、全体としての市場の改革・改善が必要だと言っている。PEセカンダリー市場や事業会社のM&Aが活発になってほしい、上場市場は魅力を増してほしい、強いPEプレーヤーにもっと参入してほしい、といったところだろう。



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