番外編|日本円の沈没が止まらない理由、長期の低落は低成長・財政運営の失敗のせい
番外編|日本円の沈没が止まらない理由
東南アジア株式新聞 2024年5月15日
最近、日本人の知り合いに円の為替レートの行方について聞かれることが多いので、この場を借りて、まとめておく。
5年間(5月15日まで)の為替レート推移(Google Finance で作成)
米ドルペッグのシンガポールドルを除くと、いずれも減価
日本円は、マレーシア・リンギットやタイ・バーツの2倍速以上で減価
円安が止まらない理由
生成AIの Google Gemini に、ドル円の上昇(円の下落)が続いている理由をまとめてもらった。
ドル円の上昇(円の下落)が続いている理由は、主に以下の3つが挙げられます。
1. 米金利と日金利の差拡大
米金利:
米国では、インフレ抑制のため、FRB(米連邦準備制度理事会)が積極的な利上げを行っています。
2024年5月には、政策金利であるフェデラルファンドレート(FF金利)を0.5%引き上げ、1.50%〜1.75%にすると発表されました。訂正:2024年5月にFRBはFF金利を5.25~5.5%で据え置きました。(読者の指摘により編集者が訂正)
今後も、インフレ状況次第では、さらに利上げが進む可能性が高いです。
日金利:
一方、日本は景気低迷懸念から、日銀は金融緩和政策を継続しています。
短期金利である無利子コール金利と長期金利である10年債利回りは、それぞれ0%と0.95%程度で推移しています。
米国と日本の金利差が拡大することで、投資家は金利の高い米国債へ資金をシフトさせやすく、ドル買い・円売りが活発化しています。
2. 米経済と日本経済の成長率差
米経済:
米国経済は、堅調に成長しています。
2024年4月の米GDP成長率は、前期比年率5.9%と高成長を示しました。
雇用市場も良好で、失業率は低水準を維持しています。
日本経済:
一方、日本経済は、成長が鈍化しています。
2024年4月の日本GDP成長率は、前期比年率0.4%と低迷しています。
輸出も減少傾向にあり、景気回復の兆しが見えづらい状況です。
米国経済と日本経済の成長率差が拡大することで、投資家は成長性の高い米国資産へ資金をシフトさせやすく、ドル買い・円売りが活発化しています。
3. 日本の財政赤字と政府債務残高
日本の財政赤字と政府債務残高は、先進国の中でも突出して高水準です。
2024年度の財政赤字は、約38兆円と巨額に膨らんでいます。
政府債務残高は、1200兆円を超え、GDP比約260%に達しています。
財政状況の悪化は、円の信用力を低下させ、ドル買い・円売りを誘発する要因となっています。
これらの理由により、ドル円は上昇(円は下落)し続けています。今後、これらの状況が変化しなければ、ドル円はさらに上昇していく可能性が高いと考えられます。
なお、為替市場は様々な要因によって変動するため、上記以外にも様々な要因が影響している可能性があります。
以上、Gemini
日本で議論が避けられていることに問題の本質はある
ジェミナイ(英語ではそう発音する)が挙げた3つの理由のうち、理由 1(金利の差)はよく言われてきた。
日本の財務大臣や財務省高官が為替介入のときに言う「ファンダメンタルズからはずれた為替レートの動き」は、主として貿易収支・経常収支、そして金利差、を指しているように思う。
単純に図式化すれば、ドル円動向を見るには、貿易と投資の資金動向を考えればよい。
貿易で「輸出<輸入」なら、輸入のための支払用ドルを必要とする日本企業が優勢 ➡ 円安
(日本企業の場合、海外での収益の一部を日本に戻すため、円買い ➡ 円高、もある)
投資で高いリターンや利回りを獲得するのにドルのほうが有利ならドルへ資金が動く ➡ 円安円安継続の理由の 2(成長率の差) と 3(日本の債務)については、日本の政府やマスメディアの報道で、まともに議論されることがとても少ない。
問題視しなければ解決策を検討することもない。
日本(円)沈没の本質はここにある。
次の2つは真剣に議論し、有効な手が打たれねばならない
経済成長する政策
財政健全化する政策
しかし日本(政府・国会・メディア)では、およそ有効でない経済成長策しか出てこないし、財政再建はまったく無視されている。
経済成長は、人口増加と生産性向上が圧倒的に重要だ。
しかし、日本の人口減少は止まらず、生産性向上も苦手なままだ(そうでなければ、デジタル先進国になっている)。
経済成長しない条件下で財政再建は絶望的だ。
また、財政再建しなければ将来不安が解消されず、人口は増えない(若者たちが日本で子供を産もうと思わない)。
日本(円)沈没を止めるには、経済成長と財政再建を両方とも成し遂げなければならない。
将来展望:Think Outside the Box!
今、与党・自民党の支持率が底まで落ち、政権交代を期待する声も出ている。
しかし、野党も、財源無視・積極財政派のバラマキ議員ばかりで、政権交代しても(日本円沈没の)事態は 1ミリも改善しない。
必要なのは、現在の権力者(政治家・中央官僚の上級者など)が一掃されることと、資本主義の精神を取り戻すこと。
一度、円の暴落 ➜ IMF など外国の介入 によって、すべての日本国民が惨めさを身にしみて感じるまでは何も始まらないかもしれない。
その後は、新しい発想で国造りをするのが良いと思う。ただ敗戦後の日本を繰り返してもつまらない。Think outside the box.(枠にとらわれずに考えてみましょう。)
たとえば、次のような方向もある。
全体で人口増は狙いにくいなら分離してしまうアイデアもある。たとえば「バラマキ国粋主義者に率いられた老人国家」を本州に放置し、北海道と九州・四国は別の国になる。
外国と経済圏を統合して、大きな経済圏で豊かさを狙う。たとえば物価水準・生活水準がそろってきたので、ASEANに加盟させてもらうのもよい。
(5月18日、追記)
日銀の利上げは円安を止めるか?
読者からの質問:
「財政、成長率がだめなのはよくわかったのですが、これだけじゃぶじゃぶ金融を緩和して、円はどうなってしまうのか、想像できないのです。日銀が金融調節できるのか、とか。どう考えればいいのでしょうか。」
円の長期低落傾向は理解していただけたものと思います。
追加として、日本銀行の行動と円レートとの関係を説明します。
日銀の行動で、円レートに影響するのは、利上げと国債購入の縮小です。
このうち、国債購入の縮小はたいして進みません。
日銀が買わないと他の買い手を必要とし、予算編成に大きな制約となります。
(発行時のクーポン金利を高めにしなければならない ⇒ 利上げ効果 ⇒ 予算の国債費の増大)
利上げは円安を止める効果を期待できます。
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5月17日の米10年債先物金利とドル円(Yahoo Finance図を加工) |
上図は、5月17日の<上段>米国10年債金利(先物)と<下段>ドル円(赤部分が米国時間帯)
米10年債金利が下がったとき、ドル円も下がりました(円高方向へ)。
米国にそういう投資行動をするファンドがいるせいですが、金利差縮小には円安を止める効果があります。
私の適当な計算では、日米金利差が3.5%まで縮まれば、急激な円安は止められると思います。
(内訳は、日金利0%のとき、どうしても 1%確保したい機関投資家がいると想定。日米両側の金融機関に1%ずつ手数料を取られる。それに、少しバッファです。
現在、10年日本国債が1.0%に近いですから、金利差4.5%で良いことになります)
米FRBは5.5から2段階ほど下げれば5.0%。
このときに日銀が(現在、短期金利0%を目標にしていますが)0.5%まで上げれば、金利差4.5%となり、急激な円安は止められると予想しています。
(長期トレンドはどうしようもないですが。)
問題は、短期金利0.5%(おそらく長期金利は1.0%〜2.0%)に日本の家計・企業・銀行が耐えられるか、です。
利上げはすなわち既発の国債価格の下落。保有国債に損失が生じます。
地方銀行は大丈夫か。
日銀は、簿価会計なので満期まで持ち切れば実現損失は出ないことになっていますが、時価損失は日銀の信認問題として騒がれるでしょう。
それ以外でも、日銀の財政は悪化します。
利上げの際、民間銀行が預けている日銀当座預金に利子を付けるためです。
(じゃぶじゃぶのご時世、民間銀行は日銀に貸してくれと言ってこないので、当座預金に付利するしかない)
もちろん家計(住宅ローン・自動車ローン・カードローン)に直接響きます。
長期金利が上がってくれば、企業の借入にも打撃があります。
今は、こんな近未来を想像しています。
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