岸田前首相のインドネシア・マレーシア訪問、目的の1つ AZECとは
東南アジア株式新聞 2025年5月7日
岸田前首相のインドネシア・マレーシア訪問、目的の1つ AZECとは
日本の2025年ゴールデンウィーク中、以下のニュースがあった。
日本経済新聞の5月5日の記事:
岸田文雄前首相、インドネシア大統領と会談 自由貿易の維持へ協力 - 日本経済新聞
自民党の岸田文雄前首相は4日、訪問先のインドネシアでプラボウォ大統領と会談した。トランプ米政権の保護主義的な関税措置を念頭に、世界の自由貿易体制の維持に向けて協力を深めることを確認した。
岸田氏は石破茂首相の特使としてインドネシアを訪れている。プラボウォ氏とは首都ジャカルタの同氏の私邸で夕食をはさんで2時間、会談した。米国の関税措置が世界経済に与える影響などについて意見を交わした。
この記事では(日本の読者向けに)「自由貿易の維持へ協力」を主な成果として書いているが、訪問先の国の受け取り方は少し違う。
今回、岸田氏が訪問したインドネシアとマレーシアが高い評価をしたのは、AZECでの日本の協力表明が理由だった。
岸田氏:石破首相の特使とAZEC議員連盟最高顧問の2役
外務省の発表文:
5月3日から7日、石破茂内閣総理大臣の特使及びアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)議員連盟最高顧問として、岸田文雄衆議院議員が、AZEC議連訪問団とともにインドネシア共和国及びマレーシアを訪問しているところ、5日から6日にかけてのマレーシア訪問の概要は以下のとおりです。
(以下略)
つまり、岸田前首相の今回のASEAN2国訪問には2つの目的があった。
首相特使として、自由貿易の維持へ向けた日本とASEANの結束を再確認すること
AZEC議員連盟最高顧問として、AZECの活動推進に貢献すること
日本のニュース報道では前者が強調され、東南アジア側では後者が広く報じられた。
インドネシア、AZECの資金を歓迎
インドネシアでは、岸田前首相はプラボウォ大統領と会談したほか、AZECのイベントにも参加した。
インドネシア発の記事で目立ったのは以下のものだ。
国営アンタラ通信の5月6日の記事:
インドネシア、地熱発電プロジェクトのためにAZECから4億9900万ドルを確保
Indonesia secures $499 mln from AZEC for geothermal project - ANTARA News
インドネシアは、西スマトラ州ソロクにあるムアララボ地熱発電所2号機の開発のため、アジア・ゼロエミッション・コミュニティ(AZEC)から8兆2,100億ルピア(4億9,900万米ドル超)の資金を確保した。
この契約は、月曜日にジャカルタでPTスプリーム・エナジー・ムアララボと国際協力銀行(JBIC)の間で締結された融資契約によって正式に締結された。
「この地熱発電所は88メガワットの発電能力があり、プロジェクトの価値は約5億ドルになります」とアイルランガ・ハルタルト経済担当調整大臣は調印後に述べた。
(中略)
調印式には現在AZEC特使を務める岸田文雄元首相(2021~2024年)も出席し、インドネシアのプラボウォ・スビアント大統領と日本の石破茂首相との最近の会談のフォローアップとして行われた。
二国間会談では、世界的な経済課題の中、環境に優しく、強靭で、公平な未来を築く上で、インドネシアと日本のパートナーシップの重要性が再確認された。
(以下略)
記事によると、インドネシアと日本の政府機関・民間企業は、AZECの枠組みに基づき、これまで 175件の覚書に署名した。
また、ハルタルト経済担当調整大臣は記者に対し、「元首相の訪問は、低炭素の未来を築く上でのインドネシアと日本のパートナーシップの強さを強調するものだ」とコメントした。
マレーシア首相、ZSEANエネルギー協力の「新しいセンターを提案」
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アンワル首相のX投稿(5月6日)岸田氏へドリアンを贈った |
5月6日、アンワル首相はX上で以下のような投稿をした。
本日、岸田文雄元首相の表敬訪問を受け、特にエネルギー転換と持続可能性の分野における地球規模の課題への取り組みにおいて、マレーシアと日本の間の戦略的協力を強化する重要な場が開かれました。
マレーシアは今年のASEAN議長国として、低炭素の未来に向けた地域の取り組みを主導するという決意を改めて表明した。同様の精神で、我々は、アジア・ゼロ・エミッション共同体(AZEC)などのイニシアティブを通じたものを含め、特に国家エネルギー転換ロードマップ(NETR)の包括的かつ大規模な実施を加速させる上での日本からの技術支援と最先端の研究を歓迎します。
日本は、再生可能エネルギー、バイオエネルギー、二酸化炭素回収・貯留(CCUS)技術における技術力と豊富な経験を有しており、持続可能なエネルギー革新における地域拠点となるためのマレーシアの取り組みを促進できるパートナーとして浮上しています。したがって、私たちは、テクノロジー、持続可能性、ASEANエネルギー統合の分野における部門横断的な協力を強化する手段として、マレーシアに新しい協力センターを設立する取り組みも提案します。
両国の産業界、政策、研究コミュニティ間の連携拡大を通じて、マレーシアはエネルギー転換計画を加速し、革新的なソリューションを開拓し、地域経済の回復力を強化できると確信しています。将来の世代に持続可能な遺産を残すために、経済的エンパワーメントに向けて取り組む時が来ています。
国家エネルギー転換ロードマップ(NETR)は、アンワル政権の掲げる最重要エネルギー政策だ。
The Edge Malaysia の5月6日の記事(中身は国営ベルナマ通信):
マレーシアと日本、AZECの下で地域の脱炭素化を推進するための連携を再確認
Malaysia, Japan reaffirm ties to advance regional decarbonisation under AZEC
マレーシアと日本は、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)イニシアチブの下、地域の脱炭素化と持続可能な成長を推進するというコミットメントを再確認した。これは、クリーンエネルギーと気候変動への強靭性に関する協力強化に向けた共通の取り組みの一環だ。
誓約は、岸田文雄元首相が火曜日にプトラジャヤ(行政首都)にアンワル・イブラヒム首相を表敬訪問した際に表明された。この表敬訪問は、岸田氏がマレーシア首都プトラジャヤで開催されるAZECサミットに出席するため、2日間の実務訪問を行った際に行われました。
(中略)
岸田氏は、AZEC推進のためマレーシアと協力するという日本の決意を再確認し、日本は技術力と資金力を通じてアジアの400兆円(11兆6,700億リンギット)の資金需要に貢献することを目指していると付け加えた。
(以下略)
「AZECサミットに出席するため」と書かれているが、他の報道を総合すると正確には、今年のAZECサミット(首脳会合)を日本・マレーシア共同で主催することが話し合われた模様だ。
ちなみに、この記事には、6日に会った岸田前首相とアンワル首相が談笑している写真(上記アンワル首相の投稿にもある写真)が掲載されている。
そもそも AZEC とは
経済産業省サイトに説明がある。
アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC) (METI/経済産業省)
AZEC(「アジア・ゼロエミッション共同体」)とは、11カ国(豪州、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、日本、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム(アルファベット順))のAZECパートナー国が参加し、域内のカーボンニュートラル/ネット・ゼロ排出に向けた協力のための枠組みです。
2023年、岸田首相の時代に、ASEAN諸国やオーストラリアに呼びかけて、作った国家間協力組織だ。
2023年と24年には2回ずつ会合を開き、アクションプランや協力案件リストを共有してきた。
上記URLがら経産省のページを見れば、これまでにAZEC案件として確認された日本の官民参加のプロジェクトが多数リストアップされている。
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