シンガポールの国家量子戦略(National Quantum Strategy)
シンガポールの国家量子戦略(National Quantum Strategy)、何をするの? 他の国は?
東南アジア株式新聞 2024年6月3日
シンガポールが先週、National Quantum Strategy(国家量子戦略)を発表した。
5年間で約3億ドル投資して、量子テクノロジーの基礎から実用化までの技術開発促進と専門人材を育成する計画だ。
既存のコンピューター技術より高速な処理能力がある量子コンピューターは、実用化が本格化すれば、製薬・医療から金融、工業製品の開発・製造など多様な分野に進歩をもたらすと期待されている。
ビジネスの観点で見れば、国際競争力のインフラとも言えるだろう。
実用化に近い技術開発においては、米国のIT数社が先行し、中国、欧州、日本などが追う展開になっている。
シンガポール官民学もすでに参戦しており、今回は国家戦略としてやりますよという宣言だ。
The Edge Singapore の5月30日の記事:
Singapore to invest $300 mil into quantum technology, to add 300MW in data centre capacity
(シンガポール、量子技術に3億ドル投資へ、データセンターへの電力供給300MW追加も)
「シンガポールは、5月30日のATxサミット初日にヘン・スイ・キット副首相によって発表された国家量子戦略の一環として、量子技術の追求に約3億ドルを投資する。」
ATxサミットは、情報通信メディア開発庁(IMDA)が主催する同国の主要技術イベントだ。
「都市国家は、量子研究開発、エンジニアリング能力、人材、パートナーシップの4つの分野で量子技術に投資する。
これは、量子力学の法則を利用して従来のコンピューターでは複雑すぎる問題を解決する、急速に台頭している技術である量子コンピューターの構築に向けた、シンガポールの競争戦略の一部である。」
もう1つ、Strait Times の同じ30日の記事:
S’pore adds another $300m in investment to develop quantum computers, talent pool
(シンガポール、量子コンピューター開発や人材育成に3億ドル追加)
「次世代コンピューターの導入をめぐる世界的な競争が激化する中、量子大国としての地位を確立しようとするシンガポールには、今後5年間で約3億ドルの追加投資が予定されている。
この資金は、研究、博士号および修士号レベルからそれぞれ100人の現地専門家の育成、量子コンピューターと機器を現地で構築するための研究活動への助成金の提供に充てられる。
この2億9500万ドルの追加投資は、国立研究財団が最初の投資を行った2002年以来、当局が量子技術に注ぎ込んできた4億ドルの研究開発予算に上乗せされる。」
すでに専門の役所もある。シンガポール科学技術研究庁 (A*STAR) 傘下の National Quantum Office(国家量子オフィス)という名称の組織で、そのウェブサイトで以下の図を見つけた。
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シンガポール国家量子戦略の推進分野(NQO資料) |
4つの推進分野:Scientific Excellence(科学技術)、Engineering Capabilities(工学能力)、Inovation & Enterprise(産学協同)、Talent(人材育成)
量子コンピューター開発では米IT企業が先行、中国も無視できない
量子コンピューターの世界的な優良企業を探してみると、以下の記事が見つかった。
米Forbes の2023年12月11日の記事:
Top 10 Quantum Computing Companies Making Change
(変革もたらす量子コンピューターのトップ10企業)
予想通り上位5番目まで、IBM、グーグル、アマゾン、マイクロソフト、インテルと米IT大手企業の名前が並んでいる。
同記事では、6番目に、D-Waveというカナダの会社を挙げている。
「量子コンピューティング システム、ソフトウェア、サービスのリーダーである D-Wave は、量子アニーリングと呼ばれるプロセスを使用しており、そのシステムは Google、NASA Ames、Volkswagen など、世界で最も高度な企業の一部で採用されています。量子アニーリングは、この分野の他のほとんどの企業が追求しているゲートベースの量子コンピューティングとは異なりますが、大規模な複雑な最適化問題を解決する上で有望です。同社は、ビジネス価値をもたらすために最適化問題に重点を置いています。」
Geminiに量子技術について質問して得た情報:
D-Wave Systems社は、中国の研究機関である「悟道量子情報科学研究院(WuDao Quantum Information Science Institute)」と提携している。
もっとも、中国がどれだけの技術力を持っているかはよくわからない。
2023年11月には、アリババが事業再編の一環で量子コンピューティング事業から撤退したニュースも流れていた。
日本の量子技術開発はどこまで進んでいるか?
Geminiに、「日本政府は量子テクノロジーにどのくらい投資しているか?」と聞いてみた。
日本の政府は、量子テクノロジーへの投資を積極的に進めており、近年その規模は拡大しています。
具体的な投資額は以下の通りです。
2018年: 内閣府が策定した「量子技術ロードマップ」に基づき、5年間で約1兆円の投資を予定していました。
2021年: 岸田政権は「量子技術イノベーション戦略」を策定し、5年間で約1兆3千億円を投資することを決定しました。
この戦略では、以下の分野への重点投資が掲げられています。
量子コンピュータ: 量子コンピュータの実用化に向けた研究開発を推進
量子通信: 量子通信技術の社会実装に向けた研究開発を推進
量子計測: 量子計測技術の高度化に向けた研究開発を推進
量子材料: 量子材料の開発に向けた研究開発を推進
政府の投資に加え、民間企業も量子テクノロジーへの投資を拡大しており、日本の量子テクノロジー産業は急速に成長しています。
「ニュースでよく見るのは富士通だけど?」
富士通は量子技術分野において日本の代表的な企業として、多くのニュースで取り上げられています。
その理由は以下の通りです。
積極的な研究開発投資: 富士通は、量子コンピュータ、量子通信、量子材料など、量子技術の幅広い分野において積極的に研究開発投資を行っています。
早期の実用化に向けた取り組み: 富士通は、単に研究開発を行うだけでなく、量子技術を早期に実用化するための取り組みにも力を入れています。例えば、2022年には、国内初の量子コンピュータ商用サービスを開始しました。
産学官連携の推進: 富士通は、大学や研究機関、他の企業と積極的に連携し、量子技術の開発と実用化を進めています。
これらの取り組みの結果、富士通は量子技術分野において世界をリードするレベルの技術を有しており、今後もその存在感はますます大きくなっていくと予想されています。
以下、富士通の量子技術に関する具体的な取り組みをご紹介します。
量子コンピュータ: 富士通は、独自の量子ゲート方式を採用した量子コンピュータの開発を進めています。2022年には、国内初の量子コンピュータ商用サービス「fugaku量子シミュレーションサービス」を開始しました。
量子通信: 富士通は、量子暗号通信の実用化に向けた取り組みを進めています。2021年には、国内初の量子暗号通信ネットワークを構築しました。
量子材料: 富士通は、量子材料の開発に向けた取り組みを進めています。2020年には、世界初の量子磁性メモリ素子の開発に成功しました。
富士通以外にも、日本には量子技術に取り組む企業が多数存在します。
ところで、「量子コンピューターとは?」
量子コンピューターは、量子力学の原理を利用して計算を行うコンピューターです。従来のコンピューター(古典コンピューター)は、情報を「0」と「1」の2つの状態を持つビットで表しますが、量子コンピューターは「量子ビット」と呼ばれる特別なビットを使用します。
量子ビットは、「重ね合わせ」という量子力学的な性質を持つため、「0」と「1」の両方の状態を同時に持つことができます。さらに、「量子もつれ」という現象を利用することで、複数の量子ビットを互いに絡み合わせ、複雑な計算を行うことができます。
これらの量子力学的な性質を利用することで、量子コンピューターは従来のコンピューターでは解くことが困難だった問題を高速で解くことができます。例えば、新薬の開発、材料科学、人工知能、金融など、様々な分野での応用が期待されています。
量子コンピューターの仕組み
量子コンピューターの仕組みは、量子力学という物理学の理論に基づいています。量子力学では、粒子の状態は波動と粒子の両方の性質を持つとされています。この波動と粒子の二重性を量子ビットを利用することで、従来のコンピューターでは実現できないような高速な計算が可能になります。
量子コンピューターの特徴
量子コンピューターには、以下の特徴があります。
高速計算: 従来のコンピューターでは解くことが困難だった問題を高速で解くことができます。
並列処理: 複数の計算を同時に処理することができます。
新しいアルゴリズム: 従来のコンピューターでは考えられなかったような新しいアルゴリズムを開発することができます。
量子コンピューターの課題
量子コンピューターは、まだ研究開発段階の技術であり、実用化には多くの課題が残されています。主な課題としては、以下のものがあります。
量子デコヒーレンス: 量子ビットは、環境の影響を受けやすく、状態が崩れやすいという問題があります。
量子誤り訂正: 量子計算においては、量子誤りが発生しやすいため、量子誤り訂正技術が必要となります。
大規模化: 量子コンピューターを大規模化することは、技術的に非常に困難です。
量子コンピューターの将来
量子コンピューターは、まだ研究開発段階の技術ですが、今後10年~20年程度の間に実用化されると予想されています。実用化されれば、新薬の開発、材料科学、人工知能、金融など、様々な分野に大きな革新をもたらすことが期待されています。
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