インドネシア新大統領は8%経済成長を達成できるか?財源不足、国有企業の債務問題、ちぐはぐな外資誘致策と問題山積
東南アジア株式新聞 2024年11月1日
インドネシア新大統領は8%経済成長を達成できるか?財源不足、国有企業の債務問題、ちぐはぐな外資誘致策と問題山積
インドネシアのプラボウォ・スピアント大統領が10月20日に誕生してから10日余りが過ぎた。
就任早々、48人もの大臣を任命し、また、その閣僚らを引き連れて陸軍士官学校で一夜を共にし、世間を騒がせた。
大統領や大臣として国に奉仕する姿勢を示したのだろうが、インドネシア政府の課題は何と言っても経済だ。地域の人口大国として経済を強くすることが国内の安定、政治・外交力の強化、ひいては国防にもつながるからだ。
プラボウォ大統領は経済成長率を8%に引き上げるという目標を掲げている。
成算はあるのだろうか?
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閣僚とともに士官学校へ、プラボウォ大統領のX投稿 |
国営アンタラ通信の 10月31日の記事:
プラボウォの8%の経済成長目標の達成
Navigating Prabowo's eight percent economic growth target - ANTARA News
プラボウォ・スビアント氏は、10月20日にインドネシアの第8代大統領に正式に任命される前に、すでに最初の任期中に同国の経済を8%の成長率に押し上げるという野心的なビジョンを描いていた。
この大幅な経済拡大目標は、プラボウォ氏と副大統領のギブラン・ラカブミン・ラカ氏の「アスタ・チタ」(Asta Cita)と呼ばれる8つの主要ミッションの重要な要素となっている。
「アスタ・チタ」の2つ目のミッションは、国の安全保障と防衛システムを強化し、食料、エネルギー、水、創造経済、グリーン経済、ブルー経済の自給自足を通じて国家の独立を促進することである。
これは、21年後にインドネシアが先進国になるという「黄金のインドネシア2045」のビジョンを支援することを目的としている。
この目標を追求するため、閣僚間の絆を強化するために2024年10月24日から27日にかけて中部ジャワ州マゲランの陸軍士官学校(アクミル)で開催された閣僚リトリートで、プラボウォは閣僚に対し、産業下流化への取り組みを継続し、食料とエネルギーの自給自足を強化するよう促しました。
この記事では、各経済担当の大臣と官庁が8%目標の達成に向けた政策作りに取り組んでいる様子が説明されている。
そのうえで、以下のような楽観論を紹介している。
アイルランガ・ハルタルト経済担当調整大臣は、この目標は達成可能であり、歴史的に前例があると述べた。
「大統領はインドネシアの経済成長率を2029年までに8%にすることを目標としました。インドネシアは1986年から1997年にかけて平均7.3%の成長を達成しており、1995年の成長率は8.2%にまで達していたので、これは達成可能です」と、同氏は水曜日(10月30日)にインドネシア・シャリア経済フェスティバル(ISEF)の開会式で述べた。
同氏は、現在の世界平均成長率が3%で停滞していることは、世界経済がCOVID-19以前のレベルに完全に回復していないことを示していると指摘した。
同氏は、今後数年間にインドネシアが新たな経済源を模索し、国家経済成長を刺激するためにイノベーションを取り入れる必要があると強調した。
「我々は経済成長の新たな源泉を見つけ、新たな技術とイノベーションを採用して、上位中所得国経済を達成する必要がある」とハルタルト氏は付け加えた。
インドネシアのGDP成長率は2023年に5.1%だったが、2024年は同水準かやや上の成長が予想されている。
現在でも、同国は世界の中では十分に高い経済成長をしており、8%はかなり意欲的な目標だ。
インドネシアの経済的な問題を指摘する記事も出ている。
The Edge Malaysia の11月1日の記事(中身はブルームバーグ電):
インドネシアの新大統領は1860億ドルの債務問題に直面
Indonesia’s new president faces US$186b debt dilemma
東南アジア最大の経済大国インドネシアの大統領に就任して数日後、同大統領は1860億ドル(8144億9000万リンギット)の負債を抱える主要国有企業(SOE)の借入コスト上昇に対処する計画を必要としている。
プラボウォ・スビアント元将軍は、国営航空会社や最大の鉄鋼メーカーを含む企業のバランスシートを修正する必要がある。前任者がインフラ整備に8000億ドルを投じ、多くの国営建設会社の負債が記録的な水準に達したためだ。政府は、ホテルやドラッグストアを運営する経済にどれだけ関与すべきかという数十年来の疑問に取り組んでいるため、この課題はさらに深刻化している。
詳細の引用は避けておくが、政府の財源に対して、国有企業の負債が大きすぎるという指摘だ。
ジョコウィ前政権では、政府の財源不足でできないインフラ整備などを国有企業に肩代わりさせ、しのいでいたという。
その結果、負債過多の国有企業が多くなっており、早期の債務問題解決が必須となっている。
すでに閣僚内の不協和音も報じられている。
CNAの11月1日の記事:
プラボウォ大統領就任後最初の週に起きた論争が今後の課題を示唆、アナリストらが指摘
Controversies in Prabowo’s first week as president signal challenges ahead, say analysts - CNA
インドネシアの新大統領プラボウォ・スビアント氏の政権は発足してまだ数日しか経っていないが、彼の内閣はすでに論争に悩まされている。
プラボウォ氏が10月20日に宣誓就任した翌日、新たに任命された人権大臣ナタリウス・ピガイ氏は、10月21日に新事務所の年間予算が640億ルピア(400万米ドル)に過ぎないと不満を述べ、直ちに幅広い批判を浴びた。
ナタリウス氏は、新設された省庁には20兆ルピアの予算の方がふさわしいと主張した。
「必要な20兆ルピアのうち、(支給されるのは)640億ルピアだけだ」 「インドネシア大統領の夢、ビジョン、願いは実現されないだろう」と大臣は述べたと、BBCインドネシアが伝えた。
数人の政治家は、ナタリウス氏は就任時にプラボウォ氏とこの件について話し合うべきだった、公に不満を表明するべきではなかった、と発言を激しく非難した。
(中略)
プラボウォ氏の内閣ポストのうち、学者やテクノクラートが占めているのはわずか20人ほどだ。残りは、プラボウォ氏の11党連合の政治家、同氏の選挙運動を支援した実業家、プラボウォ氏の元部下である軍事省および国防省の職員らが占めている。
パラマディナ大学のヘンドリ氏は、これほど大規模で多様な内閣は内部対立や亀裂が生じやすく、政府の職務遂行能力を低下させると述べた。
ちぐはぐな貿易・投資誘致政策、外資の呼び水としての新政府ファンド「ダナンタラ」設立、その一方で外国製品の閉め出しが多い
CNAの10月29日の記事:
「テマセクと近似」:インドネシアのプラボウォ大統領の新投資機関は先進国に匹敵する可能性、と当局者
インドネシアの新大統領が設立した新しい投資機関は、先進国の投資機関に匹敵し、外国投資の誘致に役立つだろうと、新たに任命された当局者は述べている。
プラボウォ・スビアント氏は、11月8日にダヤ・アナガタ・ヌサンタラ投資管理機関(ダナンタラ、Danantara)を立ち上げる予定だ。この機関は、シンガポールに拠点を置くテマセク・ホールディングスなどの著名な投資機関に似ていると言われている。
「最終的には、(テマセク・ホールディングスに)と似たものになるだろう」と、投資機関の新任責任者ムリアマン・ダルマンシア・ハダド氏は月曜日(10月28日)記者団に語ったと、地元メディアのプラットフォーム「デティック」が伝えた。
(中略)
ジャカルタ・ポスト紙が報じたところによると、ダナンタラはインドネシア投資庁(INA)に似たものになるが、基金の規模はより大きくなる。
INAはインドネシアの既存の政府系ファンドで、2020年に設立された。
「ダナンタラはAPBN(国家予算)外の投資を管理する任務を負っているため、分離された政府資産はすべて投資機関によって管理されることになるが、段階的に行われる」とムリアマン氏は述べた。
同氏は、長期的にはダナンタラがINAと合併する可能性があると付け加えた。
「理想的には、ダナンタラとINAの合併が行われるべきだ」と同氏はジャカルタ・グローブ紙に語った。
(中略)
新任の財務副大臣はまた、ダナンタラが管理する資金は非流動性のためすぐに使うものではないが、資金を増やし、多額の外国投資を引き寄せることができると明言した。
「これは非流動性の資金だが、統合すれば、他の資金を引き寄せることができる支払い能力のある超保有企業となり、戦略的プロジェクトに資金を提供する」と同氏は説明した。
しかし、インドネシアはちぐはぐな行動もしている。
地元の中小業者への打撃が大きいという理由で、中国 eコマース・プラットフォームの Temuを禁止した。
最近では、相次いで米国製スマホ、アップルの iPhone 16 とグーグルの Pixel を販売禁止にした。
前者はアップルが9500万米ドルの投資約束を履行しなかったため、後者はスマホの現地調達率 40%以上の基準を満たさなかったことが理由とされている。
中国と米国の有名ブランドを閉め出す国に、安心して直接投資する企業がどれだけいるだろうか?
米中の超大国嫌いの人から見れば、すかっとする話かもしれないが、ビジネスをする立場の企業からは敬遠されないだろうか。
TikTokのように、禁止される前にインドネシア企業に出資して、営業を継続した事例もあるが、外国企業からすれば、不安だし、(政治的な判断を探るのは)面倒だし、おそらくは余計なコストがかかる。
そんな国が、近隣の開放度の高い国々、マレーシア、タイ、ベトナムなどと外資誘致競争で勝つのは大変に難しいと思う。
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