メディカル・ツーリズム in 東南アジア2024 | タイが躍進、シンガポール・マレーシアと競争激化
東南アジア株式新聞 2024年9月6日
メディカル・ツーリズム in 東南アジア2024 | タイが躍進、シンガポール・マレーシアと競争激化
メディカル・ツーリズム。
医療と観光という直感的に結びつかない言葉に注目すると、変な言葉だという印象を受けるしかない。
実態は「医療を主目的にした海外旅行」と言うのが近いだろう。
そのように理解したうえで、国や医療法人の視点を想像すると、国際間ビジネス競争の側面が見えてくる。
10年ほど前、メディカル・ツーリズムのデスティネーション(目的地)の1つとされるシンガポールの某病院を取材したことがある。
エントランスから受付に向かう途中で「まるでホテルだ」と強烈に感じた。
通常の病院のように、あわただしく動く医療関係者や待合室で診察を待つ人々を見ることはない。
高額の個室には、そのまま手術台にもなる患者用のベッドルームのほか、付き添いが長期滞在できるようもう1つベッドルームがあり、シャワールームもあった。
匿名性を重視する患者なら、誰にも見られずに個室まで移動できる、という話だった。
ある国の特権階級が高度医療を受けるためにそんな病院へ行く、というのは医療観光の1つのパターンに過ぎない。
美容整形のために医療費・滞在費の比較的安いタイへ旅行する人もいる。
東南アジアの政府や大規模な医療法人は、医療観光産業をはっきりと意識している。
高い医療費を払ってくれる外国人の誘致は重要なビジネスなのだ。
Bangkok Postの8月31日の記事:
https://www.bangkokpost.com/business/general/2856972/thailand-to-gain-from-medical-tourism-uptick
Thailand to gain from medical tourism uptick(タイ、医療観光の増加で利益)
東南アジア最大の医療観光国であるタイは、世界的に医療観光産業が成長することで恩恵を受けるはずで、バムルンラード国際病院(Bumrungrad International Hospital)によると、この地域の市場は2030年までに43%拡大して60億ドルに達すると見込まれている。
病院グループの共同最高経営責任者であるニパット・クラブカウ氏は、経済減速にもかかわらず、世界の医療観光市場は2032年には30億ドルから2840億ドルへと年間20%成長すると予測されていると述べた。
「パンデミック後、他の東南アジア諸国や中東からの患者が増加しています」と、同氏はタイ証券取引所が主催するタイフォーカス2024イベントで語った。
ニパット博士は、タイの医療観光における利点には世界クラスの安全基準と医療の専門知識があり、タイの62の病院が米国の医療施設認定合同機構(JCI)の認定を受けていると述べた。
東南アジア最大かどうかはともかく、タイは医療観光の分野で急成長国と見られている。
記事に登場するバムルンラード国際病院グループは、全患者の約半分がタイを含む東南アジア、残りは主に中東、エチオピア、ケニアから来ているという。
シンガポールのThe Business Times の7月24日の記事:
Thailand leads Singapore in attracting medical tourists: DBS
タイ、医療観光客誘致でシンガポールをリード:DBS調査
新型コロナウイルス感染症の流行後、医療ツーリズムが回復する中、タイの医療部門はシンガポールを上回る成長を記録していると、DBSグループリサーチが水曜日(7月24日)のレポートで述べた。
同リサーチハウスは、タイの医療ツーリズムは2019年から2023年にかけて年平均5.1%の成長を遂げたのに対し、シンガポールは0.4%にとどまったと指摘した。
タイの成長率がより速いのは、医療ソリューションがより手頃で、サービスの質が向上したためだと、アナリストのレイチェル・タン氏とサシカーン・ウドムヴェイ氏は述べた。
アナリストらによると、タイには医療施設認定合同機構(JCI)の認定を受けた病院が62カ所あり、東南アジアのどの国よりも多い。JCIは世界の医療の業界標準であり、米国の基準や慣行と比較されている。
タイの医療費はソリューションやサービスの向上に伴って上昇しているが、タン氏とウドムベイ氏はどちらも、タイの医療費はシンガポールよりもまだ安いと確信している。
上の2つの記事では、JCI認定病院数が、タイを医療観光大国と呼ぶ主要な理由となっている。
医療施設認定合同機構(JCI)は米国の非営利団体だ。
9月6日現在のJCI認定病院数を調べてみると、以下の通りで、東南アジアではタイが突出している。
タイ:62
マレーシア:18
シンガポール:5
インドネシア:24
ちなみに、日本:27
これらの数字を見る限り、タイの認定病院数が多いのは確かだ。
だが、認定を取るかどうかを重視するかは、国によって大きく違う可能性が十分にある。
上に挙げた国の中で、タイ以外の国は、タイほど熱心ではないと見ることもできる。
シンガポールと日本は先進国扱いなので、認定がなくても、医療水準の評価が全般的に高いだろう。
さて、シンガポールのメディアも、マレーシアやタイに医療観光市場のシェアを奪われつつあることを指摘している。
シンガポールの医療関係者自身が高額医療分野で一人勝ち状態ではなくなったことを意識しているのだ。
The Strait Timesの3月25日の記事:
シンガポール、外国人患者は減少、重篤で複雑な治療を求める患者は増加
医療費が上昇し、地域での競争が激化しているため、シンガポールに集まる外国人患者は以前より少なくなっており、医療提供者はより重要で複雑な医療の提供に方向転換する必要があると医療専門家は述べた。
何十年もの間、インドネシア、スリランカ、ベトナムなどからの外国人患者は、健康診断から内視鏡検査、心臓バイパス手術や臓器移植などさまざまな専門分野の外科手術まで、幅広い医療を求めてシンガポールに来ている。
しかし、シンガポールが直面しているこの地域のプレーヤー、特にマレーシアとタイとの競争は、ここ数年で大幅に激化している。これらの近隣国の医療提供者は、標準的な処置をシンガポールで請求されるよりもはるかに低い料金で行うことができるからだ、と専門家は述べた。
この記事では、東南アジア地域で医療観光の勢力図が変わりつつあることを指摘している。
シンガポールの一人勝ち状態からマレーシア、タイに高額顧客(患者)を奪われつつあるという変化だ。
「地域全体の富裕層の増加、期待の高まり、アクセスの容易化により、医療旅行は拡大し続けています。特にマレーシアは大きく発展し、シンガポールやタイに続き、この地域の主要提供国となりました」と、公衆衛生の専門家ジェレミー・リム氏は語った。
シンガポールにとって外国人患者の大きな供給元であるインドネシアも、2024年にバリ国際病院を開設し、将来的には他の病院も開設することで、外国人患者の確保を目指している。インドネシア当局は、バリ病院のターゲット層は海外で医療を求めるインドネシア国民であると述べている。
「シンガポールはマレーシアとタイから大きな課題に直面しており、国内の物価上昇を考慮すると、より複雑な症例や高資産の患者に焦点を当てるとともに、コスト基盤に対処する必要がある」とシンガポール国立大学ソー・スウィー・ホック公衆衛生学部の准教授リム博士は述べた。
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