マレー半島南端の開発途上都市 フォレストシティ 誤算の『一帯一路』置き土産、軌道に乗せるのは難題 [更新]

 

東南アジア株式新聞 2024年9月16日

マレー半島南端の開発途上都市 フォレストシティ 誤算の『一帯一路』置き土産、軌道に乗せるのは難題


9月14日(土)にフォレストシティを見てきた。

フォレストシティ(森林城市)はマレー半島南端ジョホールバル市の西にある開発途上の地区だ。

中国の一帯一路政策を背景に2006年に始動した都市開発プロジェクト。

中国の大手不動産開発会社カントリーガーデン(碧桂園)とジョホール州系公営企業との合弁で開発されてきた。

カントリーガーデンは2023年に債務不履行を起こして以降、経営不安で、追加投資は望み薄だ。

だが、それ以上に、現地を見てみると、当初の青写真(マレーシアの長期滞在ビザで中国の中流以上の高齢者を多数招く)が間違いだったと思える。

マレーシア政府とジョホール州政府は今も計画を遂行する意思を示しているが、軌道に乗せるのは難題だ。

   
人気のない高層コンドミニアムが並ぶフォレストシティ。2024年9月14日。
人気のない高層コンドミニアムが並ぶフォレストシティ

昨年11月のアルジャジーラの記事:

How a focus on Chinese buyers ‘doomed’ Malaysia’s Forest City | Property News | Al Jazeera

中国人購入者をターゲットししたマレーシア・フォレストシティの「破滅」


マレーシアのジョホール州南部の海岸沿いに建設された2,833ヘクタール(7,000エーカー)のフォレストシティは、太陽が降り注ぐ熱帯の島での贅沢な暮らしを夢見る中国人をターゲットに、シンガポールを見下ろす高層マンションを誇っている。

ヤシの木が並ぶビーチと豊かな緑に囲まれたこの未来的な大都市は、経済統制、地方政治、COVID-19パンデミックによって妨げられ、その後苦境に立たされている。

財政難に陥った中国の不動産大手カントリー・ガーデンが開発したのだが、この都市の開発業者らは、現在2万8000戸の住宅にわずか9000人が住むこの場所を再活性化させようとしている。

(中略)

11月中旬のマレーシアの祝日の午後、市内の主要商業地区を数百人の人々が行き交う姿が見られた。

多くの店は閉まっており、ほとんどの人は隣接する小さなウォーターパークや免税店でアルコール飲料を購入していた。



現在、状況はこの記事のときより悪化しているように見えた。

2024年9月14日(土曜)昼頃の商業エリア(フォレストシティ)
土曜昼頃の商業エリア(フォレストシティ)

「破滅」はまだだが、商業エリアに客はあまりに少ない

ジョホールバル中心部からGrabカーを使って約30分(半分ほどは、自動車専用道路を時速90キロほどで走る)、フォレストシティ・マリナーナ・ホテルに着いた。

ロビーフロアでは、カフェレストランが午前中の朝食バイキングが終わって片づけていた。

用意された席数を見ると100人以上は客がいるようには見えたが、ロビーに人影はまばら(すべて中国系。マレーシア・シンガポールには中国系の人が多いので中国人とは限らない)。


ホテルから直結の商業エリアへ進むと、失敗したショッピングモールの光景が広がっていた。

(車窓から、ジョホールバル市内でも2つのモール廃墟を見たので、驚きは小さかった。)


営業していたのは、関税免除のアウトレットが3件、カフェ数件、スーパー1件、マレーシアのコンビニであるKKスパーマートが2件くらいで、残りは休業か、広大な空きスペース。

休業日だったがCIMB銀行の支店が1つあったので、ぎりぎり生活はできそうだ。

クアラルンプールで人気の中国系飲料店Mixueが営業していたのには少し驚いた(ここでも一番の人気店)。


見かけた客数は数十人(3時間ほど見て回ったが、多くても50人はいなかった)。

団体旅行のようで、インド系の人が多かった。


モールの海側に砂浜があり、海の家風のカフェもあった。

しかし、対岸シンガポールの海であり、海水は濁っており、ビーチリゾートにはなりえない。

水泳もマリンスポーツも無理だろう。

木陰は涼しく感じたので、住民が憩うのには役に立つだろうけど。

   

フォレストシティ砂浜、対岸はシンガポール。2024年9月14日。
対岸はシンガポール

都市開発の命運は、近隣地域への産業誘致にかかっている


森林城市の当初の計画では、中国の中流以上の層にコンドミニアムを購入・居住させること。

上海などよりはるかに安い海岸都市の高級住宅ということで売り込んだ。

贅沢にショッピングを楽しみたければ、ジョホールバル中心部やシンガポールへ行けばよい。


当てにしたのは、マレーシアの長期滞在ビザ「MM2H=マレーシア・マイ・セカンド・ホーム」で中国人の長期滞在者(高齢者)を呼ぶことだった。

マレーシアの銀行に高額預金をすることなどが条件だが、中国が資本規制を強め、年間持ち出し金額を5万米ドルまで下げたため、そもそも条件クリアが難しくなった。


だが、たとえ中国人高齢者を多数呼び込めても、それだけでは街は成立しなかっただろう。

静かに暮らす高齢者は消費額が少なめであるのに加え、逆に、高齢者が必要とする病院や送迎の交通手段などのインフラが足りない。


継続して栄える街を作るには、労働世代を多数住まわせるしかない。

上記の記事に書かれているように、家賃が月額850リンギット(2万8000円くらい)と安くなっているのは救いだ。

後は、通える範囲に働く場所があればよい。


ジョホールは経済特区として、州もマレーシア政府も産業誘致に力を入れている。

最近のデータセンター誘致では東南アジアでも成功しているエリアだが、もっともっと近隣地域に産業誘致を進めることが必要だろう。


州と中央の政府も産業誘致策の重要性には気づいている。


The Edge Malaysiaの9月16日の記事:

Forest City’s special financial zone to be launched on Friday, incentives to be introduced — Johor state exco

フォレストシティ特別金融ゾーンが金曜日に開設、インセンティブが導入される予定 - ジョホール州執行委員会

フォレストシティの特別金融区(SFZ)が今週金曜日(9月20日)に開設され、ジョホールの投資、成長、経済活動を刺激するさまざまなインセンティブとパッケージが用意される。

ジョホール投資・貿易・消費者問題・人材委員会のリー・ティン・ハン委員長は、財務大臣アミール・ハムザ・アジザン氏がイベントに出席し、SFZの重要性について説明する予定だと述べた。

フォレストシティのSFZに関する質問に答えて、同委員長は「パッケージとインセンティブは保険金融会社などに提供される」と述べた。月曜日、オースティン国際会議センターで「サンビーム・スプラッシュ2.0」を主催した後の会見で。


この計画自体は、昨年8月25日、アンワル・イブラヒム首相が発表しており、具体的な中身が発表される。

計画でターゲットにされる金融系が最善かどうかはわからないが、フォレストシティ内にオフィスが増えれば、昼間の人口が増え、より良い飲食系の店が集まる可能性が上がる。

多くの(雇用を生む)企業を誘致できるかがカギだ。



9月20日追記

Malay Mail の9月20日の記事:

Forest City SFZ first in Malaysia to offer zero tax on family wealth offices | Malay Mail

フォレストシティSFZ、マレーシアで初めてファミリーオフィスに非課税を提供

フォレストシティは、インセンティブパッケージの一環として、ファミリー資産オフィスへの課税をゼロにするマレーシア初の場所となる。

​​アミール・ハムザ財務大臣は、ファミリー資産オフィスへの課税をゼロにすることは、フォレストシティを国際資本を引き付ける誘因の1つであると述べた。

同大臣は、フォレストシティがこのインセンティブを提供するマレーシア初の場所になると付け加えた。

アミール・ハムザ大臣は、その他のインセンティブには、0~5%の優遇法人税率、およびそこで働くことを選択した知識労働者とマレーシア人に対する15%の特別個人所得税率などがあると述べた。

「これらのインセンティブは、企業、金融機関、富裕層を惹きつけ、フォレストシティの優先投資先としての地位をさらに高めると期待されています」と、フォレストシティ特別金融区(SFZ)のインセンティブパッケージ発表時のスピーチで同大臣は述べた。




9月29日追記


9月23日発表のインセンティブ

Forest City Special Financial Zone Tax Incentive Package


  
フォレストシティ公式サイトより
フォレストシティ公式サイトより


マレーシアのMM2Hビザの記事:

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