シンガポール、大規模マネロン関与で金融機関と法律事務所に厳罰

 

シンガポール、大規模マネロン関与で金融機関と法律事務所に厳罰


2023年8月に騒がれたシンガポール史上最大のマネーロンダリング(資金洗浄)事件は記憶に新しい。

その犯罪者集団が扱った資金は数10億ドル規模だったと言われる。

同年8月15日に大規模な捜査が行われ、外国人(中国出身)10人が逮捕された。

その後、男性9人と女性1人は、一部は投獄され、

一部は国外追放され、シンガポール再入国禁止の処罰を受けた。


その事件に関連し、シンガポールの金融・司法の当局は最近、処罰を発表した。

  • 7月4日、通貨庁(MAS)が金融機関に罰金を課したと発表。

  • 7月15日、法務省が不動産の譲渡に関与した法律事務所を処罰したことを発表。




法律事務所への処罰

シンガポール法務省の7月15日の発表:

2023年の大規模マネーロンダリング事件を受けて法律セクターで進行中の執行措置

1. 法務サービス局長(DLS)は、法務省(MinLaw)の支持を得て、2023年8月に実施されたマネーロンダリング対策作戦で押収された不動産の譲渡に関与した法律事務所に対し、捜査を行っています。


発表文には以下のようなことが書かれている。


法律分野におけるマネーロンダリング対策義務

すべての法律事務所と弁護士は、1966年法律専門職法に基づくマネーロンダリング対策義務を負う。

たとえば、

  • クライアントに関するマネーロンダリングリスクの適切な分析を行う

  • クライアントのリスクプロファイルに応じた顧客デューデリジェンス(CDD)措置を実施

  • 法律事務所または弁護士は、クライアントがマネーロンダリングに関与している可能性が

あると合理的に疑う根拠がある場合、警察に疑わしい取引報告書を提出する

そして、

法律事務所がマネーロンダリング防止義務に違反した場合、免許に対する規制当局による監督措置の

対象となる。

弁護士がマネーロンダリング防止義務に違反した場合、懲戒手続き(資格はく奪等)の対象となる。


執行措置

DLS(法律事務所)は、24の法律事務所に対し調査を実施し、現在までに11の法律事務所に

対する調査が終了した。

  • 2つの法律事務所に対し、それぞれ3万ドルと10万ドルの罰金

  • 3つ目の法律事務所に対し、7万ドルの罰金を命じる旨の法定通知を発行

  • 4つ目の法律事務所に対し、非公開で訓告処分

  • 1名の弁護士をシンガポール法曹協会に懲戒処分として付託


マネーロンダリングに対する継続的な警戒

法執行機関から金融機関や法律事務所などのサービス提供者、そして一般市民に至るまで、

シンガポールのマネーロンダリング対策システムの堅牢性を維持するには、誰もが役割を担っている。



CNAのWeb版は、7月15日の記事:数10億ドルのマネロン事件で4つの法律事務所が不動産譲渡に関与 の中で、「CNAは、法務省に対し、関係企業名を含む詳細情報の提供を求めている。」と書いている。

法律事務所名や不動産会社などの詳細は公表されていないようだ。




金融機関への処罰

シンガポール通貨庁(MAS)の7月4日の発表:


MAS、AML関連違反で金融機関9社に規制措置

シンガポール通貨庁(MAS)は本日、マネーロンダリング(ML)関連の違反行為を理由に、

金融機関9社と個人数名に対する規制措置を発表しました。

MASは、2023年8月に発生した大規模なML事案において、

関係者と関係のある金融機関、およびMASのマネーロンダリング及びテロ資金供与対策(AML/CFT)要件を

満たしていなかった当該金融機関の従業員に対する監督検査を完了しました。

今回の一連の措置により、大規模なML事案に重大な関係のある金融機関に対するMASの執行措置は完了しました。


発表文には、以下のことが書かれている。

金融機関に対する規制措置

  •  MASは、金融機関9社に対し、総額2,745万Sドルの罰金を課した。

    
MASの2025年7月4日の発表文より
発表文より


  • MASは以下の分野において欠陥を発見した。

(a) 顧客リスク評価

金融機関5行(BJBS、BOIPL、Citi、CSSB、UOBKH)は、マネーロンダリング・リスク

評価に関する適切なポリシーまたはプロセスを導入していなかった。

(b) マネーロンダリングリスクの高い顧客の資金源(SOW)確定と証拠集め

9行全ての金融機関が、マネーロンダリング・リスクの増大を示唆する重大な矛盾や

危険信号を検出せず、適切なフォローアップも行っていなかった。

(c) 取引監視

 8つの金融機関(BJBS、Citi、CSSB、LGTS、UOB、UOBKH、TTCSPL、UBSS)は、

自社システムによって疑わしいとフラグ付けされた関連取引を適切に審査していなかった。

(d) 疑わしい取引報告(STR)後のフォローアップ

2つの金融機関(UOBとUOBKH)は、適切かつタイムリーなリスク軽減措置を講じなかった。


個人に対する規制措置

  • MASは、以下の個人に対し、3年から6年の期間にわたる業務禁止命令(PO)を発令した。

(a) BOIPLの最高経営責任者(CEO)兼執行取締役のツァオ氏、6年間の禁止命令

(b) BOIPLの最高執行責任者(COO)ウォン氏、5年間の禁止命令

(c) BOIPLのED兼リレーションシップ・マネージャーのシア・ルン・ウェイ氏、3年間の禁止命令

(d) BOIPLの元RMであるデン・シーシー氏、3年間の禁止命令

その他に10数名が譴責(Reprimand)処分に。


発表文の最後では、金融機関に対する注意喚起をしている。

金融機関はベストプラクティスを採用し、マネーロンダリング/テロ資金供与のリスクに対して

警戒を怠らないこと



(罰金を課された金融機関名)

  • クレディ・スイス・シンガポール支店(CSSB)

  • UOB

  • UBSシンガポール支店(UBSS)

  • シティバンクN.A.シンガポール(CNAS)

  • シティバンク・シンガポール(CSL)

  • ジュリアス・ベア銀行シンガポール支店(BJBS)

  • LGT銀行(シンガポール)(LGTS)

  • UOBケイヒン・プライベート(UOBKH)

  • ブルー・オーシャン・インベスト(BOIPL)

  • トライデント・トラスト・カンパニー(シンガポール)(TTCSPL)





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