インドネシア、財務相交代で財政と金融市場に危険信号【更新】
インドネシア、財務相交代で財政と金融市場に危険信号
プラボウォ大統領は9月8日に内閣改造を行い、長期にわたって財務相だったムルヤニ氏を解任した。
大統領は内閣改造について詳細な説明はしなかった。
経済的な不平等の拡大に対する抗議デモの責任を取らせたとも受け取れるし、
より大統領に近い閣僚で内閣を固めて難局を乗り切ろうという意図かもしれない。
だが、来年度予算は拡張的で財政規律が緩む可能性がある。
金融市場から国際資本を遠ざける危険信号が灯っている。
それでも、インドネシア政府は景気刺激を優先する姿勢を崩していない。
株式市場は政府の積極策を支持しているように見える。
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東南アジア株式新聞 2025年9月17日
インドネシア政府、国営銀行への資金貸出や景気刺激策で成長促進
財政不安が高まる中、インドネシア政府・中央銀行は積極的に景気を刺激する策を相次いで
打ち出している。
抗議デモの1つの核であるオンライン・バイクタクシー運転手たちの不満を緩和する策に加え、
協同組合や漁村、大卒者など幅広い層へ雇用拡大に向けて支援する。
中央銀行は、国立銀行の貸出資金を増やし、政策金利も下げた。
アンタラ通信の9月12日の記事:
インドネシア、成長促進のため5つの国営銀行に200兆ルピアを注入
プルバヤ・ユディ・サデワ財務大臣は金曜日午後、国営銀行協会(ヒンバラ)傘下の国営銀行5行に対し、
200兆ルピア(約122億米ドル)の政府資金を支出すると発表した。
サデワ財務大臣は金曜日、ジャカルタの経済担当調整省で行われた記者会見で、
「昨日、銀行セクターに200兆ルピアを注入することを約束しました。これが承認され、
本日午後に資金が配分されました」と述べた。
対象となる5行のうち、インドネシア人民銀行(BRI)、インドネシア国立銀行(BNI)、マンディリ銀行は、
それぞれ55兆ルピアを受け取った。
タブンガン・ネガラ銀行(BTN)は25兆ルピア、シャリア銀行(BSI)は10兆ルピアを受け取った。
サデワ財務相の説明では、「政府資金は通常、インドネシア中央銀行に保管されており、
銀行はこれにアクセスできません。その一部を国営銀行に移すことで、
政府支出が遅れた場合でも銀行は経済を支えることができます」とのことだ。
実際にはこの資金は銀行に対する政府からの貸付であり、
貸付金利はインドネシア中央銀行から市中銀行への貸出レートの80.476%に設定されている。
つまり、年率4%ほどの金利を付けて政府に返す必要がある。
国営銀行はその金利以上の利回りを稼ぐ必要があるため、200兆ルピアは有効に使われる、
というのが政策意図だ。
9月17日、インドネシア中央銀行は3ヶ月連続となる利下げを実施した。
政策金利を4.75%まで下げた。
15日には、政府は16兆ルピア超の景気刺激策を発表している。
国営アンタラ通信の9月16日(火)の記事:
インドネシア政府、雇用と成長促進に向けた2025年の景気刺激策を発表
インドネシア政府は火曜日、来年の成長率5.2%を目標とする中、雇用創出、ギグワーカー支援、家計購買力強化
を目的とした2025年経済刺激策を発表した。
「8+4+5」と呼ばれるこの対策は、8つの加速プログラム、4つの継続プログラム、そして5つの雇用吸収策で
構成されている。
残念ながら、この記事では、予算総額や、8、4、5 のプログラムの詳細は書かれていない。
オンラインバイクタクシー運転手、宅配便業者、物流従事者の社会保険料の50%割引
それらの事業者に労働災害保険と死亡保険
大学卒業生2万人にインターンシップを提供し、それぞれ月額330万ルピア(200ドル)の給付金
運輸省と公共事業省によるキャッシュ・フォー・ワーク制度
(インフラ整備事業に従事する労働者を雇用し、日給を支給)
100万人以上の雇用が見込まれるメラ・プティ村協同組合
20万人以上の雇用創出が見込まれるメラ・プティ漁村
1,830万世帯に2ヶ月間、毎月10キログラムの米を支給
観光業従事者に対する所得税補助金の拡充
景気刺激策の金額としては、CNAが「16兆2300億ルピア(9億8933万米ドル)規模」と報じている。
Indonesia unveils economic stimulus package worth almost US$1 billion - CNA
「5」については追加報道があった。
アンタラ通信の9月16日の記事:
インドネシア、2025年までに300万人の雇用を創出する5つの優先プログラム
インドネシアのアイルランガ・ハルタルト経済担当調整大臣は、5つの政府優先プログラムにより、
全国で300万人以上の雇用が創出されると発表した。
5つのプログラムは、村落協同組合、漁村、養殖池の活性化、小規模農園の植え替え、漁船の近代化を
網羅しています。
村落協同組合プログラムで2025年12月までに68万1000人から100万人の雇用を創出
漁村:今年中に100の漁村が設立、約9000人の雇用を創出
ジャワ島北部沿岸の養殖池の再生:16万8000人の雇用を創出
漁村近代化計画:新しい船舶を供給して20万人の雇用を追加
87万ヘクタールの小規模農園にサトウキビ、カカオ、ココナッツ、コーヒー、カシューナッツ、
ナツメグといった主要産品を植えることにより、160万人以上の雇用を創出
東南アジア株式新聞 2025年9月9日
財政規律の象徴がいなくなり、資本逃避の可能性が語られる
CNAの9月8日の記事:
プラボウォ内閣改造でスリ・ムルヤニ財務大臣を解任、数週間にわたる抗議活動を受け
インドネシア大統領は9月8日(月)、国会議員の特権をめぐり全国で発生した死者を出した抗議活動を受け、
内閣改造を発表し、主要な経済・安全保障担当大臣を交代させた。
解任されたのは5人の大臣で、その中には、広く尊敬を集めるテクノクラートで世界銀行の元専務理事である
スリ・ムルヤニ・インドラワティ財務大臣と、ブディ・グナワン政治安全保障担当調整大臣も含まれている。
後任は、インドネシア預金保険公社の長官のプルバヤ・ユディ・サデワ氏。
プルバヤ氏は、国営証券会社ダナレクサ証券の最高経営責任者(CEO)を務めたほか、官庁勤務の経験が豊富なエコノミストだ。
後任の人選に問題はないように見えるが、
ムルヤニ氏は財務大臣を長く努めており、国際金融市場からの信頼が厚かった。
ムルヤニ氏の解任を発端としてインドネシアからの資本逃避(キャピタル・フライト)が起きる
と予想する声も上がっている。
以下の香港紙の記事の中では、ロンドンの証券会社のストラテジストが
South China Morning Post の9月8日の記事:
インドネシアのプラボウォ・スビアント大統領は、スリ・ムルヤニ・インドラワティ財務大臣を解任した。
数日にわたる政権に対する暴力的な抗議活動を受け、東南アジア最大の経済大国である同国は
再び金融混乱に陥る恐れがある。
(中略)
スリ・ムルヤニ氏の自宅は、エリート層への特権付与をめぐる最近の全国的な抗議活動で略奪されたが、
国際投資家の間では広く尊敬を集めている。
「国際投資家は財政見通しの現状に動揺しており、資本逃避のリスクは間違いなくある」と、
ロンドンのペッパーストーン・リサーチのシニア・リサーチ・ストラテジスト、マイケル・ブラウン氏は述べた。
「ルピアNDF(ノンデリバラブル・フォワード)は既にヘッドラインでかなり軟調に推移しており、
この傾向は今後も続くと予想される」
スリ・ムルヤニ氏の解任が確定したことを受け、オフショア・ルピア1ヶ月物ノンデリバラブル・フォワードは
下落幅を拡大し、一時0.6%上昇していたものの、0.7%安の1ドル=16,516ルピアで取引を終えた。
PTバンク・セントラル・アジアとPTバンク・マンディリ・ペルセロの株価が下落を主導した。
スリ・ムルヤニ氏は過去20年間のうち14年近くインドネシア財務省を率い、
財政面での信頼性の象徴となっていた。
財政規律を守る象徴がいなくなった意味は大きい。
インドネシアの財政規則では、財政赤字はGDPの3%以下に制限されているが、
補助金偏重の政策によってこの上限は圧迫されている。
プラボウォ大統領の看板政策には学校給食無償化プログラムなどがあり、
財政の制限突破が近いと見られている。
SCMP記事では、政治社会学者、ワシスト・ラハルジョ・ジャティ氏のコメントを紹介している。
「彼女の解任は、現在の経済低迷への解決策にはならない」とワシスト氏は述べた。
「誰が後任に就こうと、同じジレンマに直面することになるだろう。
2026年度予算がテクノクラートの努力ではなく政治によって決定されるのに、
国家予算とポピュリスト政策をどう両立させるのか」
インドネシア議会は2026年度予算案を審議中
8月15日(金)のジャカルタ発ロイター電:
インドネシア、2026年度予算を発表、赤字削減、3年以内の財政均衡を目指す
インドネシアのプラボウォ・スビアント大統領は金曜日、2026年度予算案を2340億ドルで提出した。
対GDP比2.48%の財政赤字を予測しつつ、3年以内に財政赤字を解消し均衡財政を達成すると約束した。
プラボウォ大統領は議会で政権発足後初の予算案を発表し、
年間GDP成長率5.4%を目標とする2026年度予算案は、東南アジア最大の経済大国インドネシアが
「強固で、自立し、繁栄する」ことを目指していると述べた。
インドネシアの会計年度は1〜12月。
通常、議会の予算案審議は1か月ほどかかるそうなので、まもなく可決される見込みだ。
ロイター記事はいくつか興味深い事実を紹介している。
GDP成長率5.4%は過去5年間の平均を上回っている。
今年の財政赤字はGDPの2.78%と予測されている。
2026年度予算として発表された3,786.5兆ルピア(2,343億9,000万ドル)は、
2025年度の最新の歳出見積もりより7.3%高い。
予算案の前提:インフレ率2.5%、来年の為替レート1ドル=平均1万6,500ルピア。
無料給食プログラムに171兆ルピアを計上した。
国防費に335兆ルピア。これは37%増。
再生可能エネルギーへの補助金などエネルギー強靭化のために402兆ルピア。
地方自治体への現金給付650兆ルピア。これは25%減。
「創造的な資金調達」を奨励し、政府系ファンドのダナンタラと民間セクターの役割を強化。
予算案はいろいろ楽観的な見通しに基づいている。
トランプ相互関税で輸出の鈍化が予想される中、どうやってGDP成長を底上げするのかが、
見えない。
米欧の格付会社によるインドネシア国債の格付けはおおむねBBBと、いちおう投資適格水準ではあるが、
財政規律が緩んだと評価されて格下げされてはならない位置だ。
(BB以下は投資不適格=ジャンク債)
予算案がそのまま通れば、インドネシアはかなりきわどい道を進むことになりそうだ。
株価は史上最高値圏だったが・・・
8月28日、IDX総合指数は場中で8,022.76の最高値に達し、
時価総額は1兆4,400兆ルピアと過去最高を記録した。
9月に入っても、インドネシア株は最高値圏にあった。
ムルヤニ財務相の解任後、
最初の営業日の9月8日、1.28%下落。
9日は1.78%下落し、7,628まで下がっている。
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