同日に重なったアジア先進国の金融政策変更:シンガポールMASは金融緩和、日銀は利上げ

 

東南アジア株式新聞 2025年1月24日

同日に重なったアジア先進国の金融政策変更:シンガポールMASは金融緩和で経済に余裕を付与、日銀は正常化へ向け利上げしたが目標は遠い

1月24日、シンガポールと日本の金融政策変更が重なった。

どちらもアジアの先進国だが、共通点は小幅な変更であることくらいだ。


シンガポール通貨庁(MAS)は約5年ぶりに「緩和」した。景気減速しつつあるのと、トランプ 2.0 の荒波が押し寄せてきそうなので、経済に余裕を与えた。


日本銀行は政策金利を0.25%から0.5%に引き上げた。超低金利政策が長かった日本では17年ぶりの”高い”金利だ。

「正常化」はまだ道半ばだが、次の利上げは7月という説が強い。目標は遠い。



シンガポールMASの金融緩和、短期的には株安・Sドル高・長期金利変わらず

  
2025年1月24日、STIの推移(SGX公式アプリより)
1月24日、STIの推移(SGX公式アプリより)


  

CNA の1月24日の記事:

シンガポール通貨庁、約5年ぶりに金融政策を緩和、2025年のコアインフレ予測を引き下げ

MAS eases monetary policy for first time in nearly five years, lowers 2025 core inflation forecast - CNA


シンガポール通貨庁​​(MAS)は、今後1年間の成長鈍化とインフレ緩和が見込まれる中、約5年ぶりに金融政策を緩和する方向に動いた。

中央銀行は、金曜日(1月24日)に発表した1月の金融政策声明で、シンガポールドルの名目実効為替レート(S$NEER)政策バンドのスロープ(傾斜)を「わずかに縮小」すると述べた。

政策バンドの幅とそれが中心となるレベルは変更せず。

(中略)

中央銀行はまた、今年のコアインフレ率の予想を引き下げ、消費者物価の主要指標は「予想よりも急速に緩和し、今年は2%を​​下回るだろう」と指摘した。

私的交通費や宿泊費を除いたコアインフレ率は、当初の1.5〜2.5%の予想から2025年には平均1〜2%になると予想されている。



シンガポールの金融政策は特殊だ。


S$NEERは、主要な貿易国の通貨を貿易量で加重平均する通貨バスケット制度。

(構成通貨、構成比率については公表されていないが、Sドルはほぼ米ドルに近い動きをするため、米ドルの比重が高いと見られる)

この制度は、①政策バンド、②スロープ、③レベル、の3つの要素で操作されている。


今回はこのうち、スロープを「わずかに縮小」した、すなわち、緩くした。

これが「日銀が政策金利をわずかに下げる」に近い操作に当たるのだから、短期金利がほんの少し低下するように誘導するようなものだろう。


24日の時点で観測された効果は、株安・Sドルがドルが対米ドルで上昇・長期金利は変わらず、といったところだ。

金融緩和の効果としては、近い将来、Sドルの対米ドル・レートが低下し、長期金利が低下、少しは株価が上向くことが予想される。





日銀の利上げ、短期的に株安・円高・長期金利上昇の効果


  
2025年1月24日の日経平均株価(日経電子版より)
1月24日の日経平均株価(日経電子版より)


日本経済新聞の1月24日の記事:

日銀、0.5%に追加利上げ決定 17年ぶり水準 - 日本経済新聞


日銀は24日開いた金融政策決定会合で追加利上げを決めた。政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を、0.25%から0.5%に引き上げる。利上げは2024年7月会合以来で、政策金利は17年ぶりの水準に乗せる。金利の正常化が一段と進む。


日銀、物価見通しを上方修正 26年度は2.0%に - 日本経済新聞


日銀は24日、1月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を公表した。2026年度の生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)上昇率の見通しを前年度比2.0%とし、10月時点から0.1ポイント引き上げた。賃金と物価の好循環が回ることで、26年度も数値上は政府・日銀が目標とする物価2%に達すると見通した。

25年度の見通しを2.4%とし、10月時点から0.5ポイント引き上げた。24年度も2.5%から2.7%に上方修正した。見通しは9人の政策委員の中央値を示す。


24日に観測された、利上げの短期的な効果は、株安・円高・長期金利の上昇だ。

  • 日経平均株価は前日比 -0.07%とわずかに安くなって今週の取引を終えた。

  • ドル円は朝に156円台だったが、一時154円台まで円高に振れた。

  • 長期金利(10年物国債利回り)は、一時、前日比0.020%高い1.235%まで上昇した。



多くの国が利下げする中での日銀の利上げは奇妙な光景だ。

だが、海外のメディアも、日銀が「normalization」(正常化)を進めていると書いているので、日銀が異常な低金利政策から正常化の途上にあるということは、少しは理解されている模様だ。

今回の利上げにより無担保コール翌日物金利が0.5%となったとはいえ、主要国の政策金利に比較するとかなり低い。もっと上げてもおかしくはない。


あまり騒がれはしないが、日銀は国債買入の減額も実行しているはずなので、長期金利も上がる方向だ。

為替について言えば、今回の利上げを経ても、長期的には円安方向へ動く力が強い(低成長・財政ボロボロ・デジタル赤字など)。

インフレは都合よく(日銀目標の)2.0%辺りで終息してくれそうにはない。

日本経済が<停滞>から<大不況>へ落ち込む可能性が消えない。


日銀としては大不況のトリガーとなりたくはない。

正常化はきわめて遅いスピードで進められている。

日本のメディアをいくつか見たが、「次の利上げ(0.75%まで)は7月」という予想が主流のようだ。








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