台湾をめぐる日中舌戦、東南アジアではどう見られているか
台湾をめぐる日中舌戦、東南アジアではどう見られているか
東南アジア株式新聞 2025年11月26日
日中間では、台湾防衛をめぐって主に政府のスポークスマン同士の舌戦が続いている。
中国は、台湾有事に軍事行動を示唆した高市発言を撤回するよう抗議しているが、
日本は「日本の立場は変わっていない」の一点張りだ。
だが、日中舌戦は今のところ、東南アジアでは大きな関心を呼んではいない。
ASEAN諸国にとって、日中両国はともに大きな貿易相手国だが、
どちら側の軍事行動に対しても(心情的にさえ)味方になる勢力はこの地域にはほとんどいない
ように見える。
(日本は過去の侵略者であり、中国は今現在、軍事力で微妙な圧迫を加えてくる相手だ。
中国艦艇が領海拡大努力の一環として近海に現れるのは、フィリピンの近海などでよく見られる)
概して言えば、東南アジアでの現時点での反応は次のようになる。
直近の米中の対話の前進はアジア地域の安定につながるため歓迎されている。
中国のネット民が迷惑な存在であるのは知られている。
台湾防衛のための軍事行動を示唆する日本政府に共感する声は東南アジアにはない。
高市発言から約3週間、電話による米中と米日の首脳会談があった
日本経済新聞の11月25日の記事:
存立危機事態の高市首相答弁「政府見解変更せず」 答弁書を決定 - 日本経済新聞
政府は25日の閣議で「存立危機事態」に関する高市早苗首相の国会答弁について
「従来の政府の見解を変更しているものではない」との答弁書を決めた。
公明党の斉藤鉄夫代表の質問主意書に答えた。
斉藤氏は集団的自衛権の行使が可能な存立危機事態の認定基準に関する政府見解が維持されているのかを
聞いていた。
首相が7日の衆院予算委員会で、台湾有事に関して
「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」などと発言したためだ。
中国が撤回を求めている高市発言は、撤回されず、国会の議事録に残った。
24日には、トランプ米大統領が中国の習近平主席と電話会談した後、高市首相とも電話で会談した。
中国側が会談後、台湾に対する立場をトランプ氏に伝えたと公表しているため、
日中首脳の間でも台湾が言及されたはずだが、詳細な内容は明らかにされていない。
日米電話協議の後、25日の高市首相の会見でのコメント:
「日米間の緊密な連携を確認できた」
「日米同盟の強化やインド太平洋地域が直面する情勢や諸課題について幅広く意見交換した」
「会談内容は外交上のやりとりなので詳細は差し控える」
11月27日追記:
Trump advises Takaichi not to provoke China on Taiwan: Report - CNA
トランプ大統領、高市氏に台湾問題で中国を刺激しないよう助言:報道
24日の米中と米日の電話会談が示唆すること
2つの電話による首脳会談は、地域の安定に資するものか、それとも・・・
CNA の11月25日の分析記事:
米中首脳電話会談が台湾や日本などに関する両国の優先順位について明らかにしたこと
北京/深セン:ドナルド・トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は、
韓国での会談から1か月も経たないうちに電話会談を行った。
アナリストらによると、日中関係の緊張の高まりと両国の優先事項の顕著な相違が、
異例の速さで行われた会談の契機となった。
アナリストらは、両国がそれぞれどのような意図を持っているかを示すより明確な兆候は、会談自体ではなく、
公式声明の中で何を強調し、何を省略したかにあると付け加えた。
米中が共に「話し合った」と言っていること:
①米中両国の貿易交渉など関係改善、②ロシア・ウクライナ戦争、だけだ。
中国側だけ「話し合った」と言っていること:
「台湾は中国にとって重要な問題だ」と伝えた。
記事は、これらから、アナリストたちの意見をまとめ、
米国が言わなかった「台湾」問題こそが電話会談の重要部分だったと見られることを示唆している。
その後の米日首脳の電話協議については意見が分かれる。
「米国が日本の最近の発言を「支持しない」というシグナルを送った」と見る人もいれば、
日本側の発表内容から、
「日本側が立場を撤回するよう求める声を一切受け取っていない」と指摘する人もいる。
月曜日の電話会談後、トランプ大統領はTruth Socialへの投稿で、
「習近平主席から4月に北京を訪問するよう招待され、これを受け入れた」と公表した。
米中関係の改善については前進した。
米中関係改善はアジア地域全体にとっては良い話だが、日本の高市政権にとっては悪いニュースだろう。
近い将来、中国が台湾を併合する事態になっても、中米で何かディールをする可能性がある。
ディールにより米国が戦わないなら、日本による集団的自衛権の行使はできない。
CNA記事は以下のような見方を紹介している。
シンガポールに拠点を置く地政学コンサルティング会社APACアドバイザーズのCEO スティーブン・オクン氏は、
トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」政策をどのように実行するかによって、この地域は大国間の
「勢力圏」の復活へと向かう可能性があり、現在の日中対立の激化がその促進要因となると述べた。
「文字通りの『ヤルタ2.0』を目撃することはないかもしれないが、結果は似たようなものになる可能性がある。
米国は台湾海峡における積極的な関与を中国に譲ることになるだろう」とオクン氏はCNAの取材に答えた。
これは、連合国が第二次世界大戦後のヨーロッパ秩序を交渉した1945年のヤルタ会談を指している。
オクン氏は、トランプ大統領の北京訪問が予定されている「今から4月まで」は、注目すべき時期だと示唆した。
ヤルタ会議は、第2次世界大戦の終了間際、米・英・ソ連が参加した会議だ。
終戦後のドイツ占領地域での米ソの利害を調整し、新しい欧州秩序の原型を作った。
2.0として想定されている対象地域は、台湾と日本を含む東アジアだろうか?
シンガポール首相は未来志向の発言、中国ネット民からとばっちり
シンガポールのローレンス・ウォン首相は、11月19日にシンガポールで開催された
ブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラムで、日中の問題について問われて答えた。
「アジアの安定は誰にとっても利益であり、両国が緊張緩和の道筋を見出すことを期待する」
「(日中間には)第二次世界大戦の歴史の重荷が依然として残っている」
「両国がこれらの非常に複雑な問題を解決し、前進していく道筋を見出すことを願っています。
東南アジアは日本とそうしてきました。
時間はかかりましたが、時が経ち、世代が移り変わる中で、人々の感情は変わり、
私たちは歴史を脇に置きました。そして、私たちは前進しています」
穏当で未来志向の発言だが、ネット上の中国人は気に入らなかったようだ。
The Straits Times の11月25日の分析記事:
日中対立に関するウォン首相の発言をめぐり、中国ネットユーザーによる批判、揶揄、歪曲
北京/香港発 ― 香港で始まり、その後、中国本土もこの流れに乗った。
先週、中国のオンライン上では、台湾をめぐる日中対立に関するローレンス・ウォン・シンガポール首相の
最近の発言をめぐり、辛辣な批判や揶揄が殺到した。
首相の発言は、東アジア情勢に関する同国の長年の立場を鮮明にするものだった。
島国の外交政策姿勢によって引き起こされた反シンガポール感情は、今に始まったことではない。
2016年のテレックス事件をめぐる大規模なオンライン影響力行使と偽情報キャンペーン、
香港税関がシンガポールの軍用車両を押収したシンガポールと中国の間の重大な外交問題、
そしてさらに最近では、
シンガポールが中国と関連があるとされるサイバースパイ集団を特定したことをめぐる騒動など、
様々な事例が過去にはあった。
香港の am730やon.ccなど、複数のメディアはほぼ同じ見出しを掲載し、
ウォン首相が中国に対し「歴史的偏見を捨てるよう示唆」したと強調した。
「日中対立におけるシンガポールの明らかな偏見は不快だ」と、上海を拠点とする
ニュースサイトGuancha.cnから配信された11月24日付のHK01の記事。
中国のソーシャルメディアには動画や記事が大量に投稿され、ウォン首相の発言について
独自の見解を述べたが、多くの人が、シンガポールが中国に対して日本側に立ったと誤解した。
「シンガポールはアメリカの手先だ」「中国はシンガポールに甘やかしすぎている」など。
11月25日、Weiboで、「シンガポールはなぜ日中紛争に介入するのか」が、
一時、トレンドのトップトピックとなった。
同記事では、「一部のコメントが組織的に出現したことを考えると、ある程度の策略と仕組まれた
怒りが存在している可能性が高い。もう一つの動機は、自己利益かもしれない」と分析した。
日本のネトウヨと同じく、組織的な行動と単に雇われた人(インプレッション稼ぎの人)
の投稿が混じっているということだ。
中国の「ネトウヨ」のほうが日本のより圧倒的に人数が多いと想像される。
記事は、以下のように締めくくられた。
「注目すべきは、中国の公式メディアがオンライン上の不満に関する報道を行っておらず、
著名な中国の学者もシンガポールの立場について発言していないことだ。
つまり、中国の厳しく規制されたインターネット上で反シンガポール感情が蔓延している
にもかかわらず、シンガポールと中国の関係に影響を及ぼす兆候はまだほとんど見られない」
香港紙は日本の右傾化を分析
実のところ、ASEAN域内の英語メディアでは、日本の右傾化は深刻な話題になっていない。
東南アジアに近い地域では、香港の歴史ある新聞だけが日本の右傾化を気にしている。
South China Morning Post の11月23日の記事(北京駐在の記者の署名):
日中外交危機は、日本における長年にわたる根本的な右傾化の結果であり、中国が備えなければならない
「長期にわたる闘争」の一部であるとアナリストらは指摘している。
この分析は、高市早苗首相が今月初め、台湾海峡における仮想的な紛争は日本による軍事的対応を招くと
示唆したことを受けて、両国関係が急激に悪化する中で行われた。
北京にとって、この発言は「核心的利益」に踏み込んだものであり、国連への抗議、国民への日本渡航禁止勧告、
日本産水産物の輸入停止など、経済的な報復措置と連日の激しい非難を正当化するものだ。
北京はまた、高市首相の発言を約1世紀前の日本の中国侵略と結び付け、
日本の戦時中の過去の亡霊を甦らせている。
この記事は、日中関係を概説しつつ、学者や研究者の意見を紹介している。
1972年、日中国交回復。
1998年、日中両国は平和と発展のためのパートナーシップの構築を目指す共同宣言に署名した。
2008年には、「戦略的互恵関係」を全面的に推進することを誓う共同声明に署名した。
中国外務省によると、これらの文書は二国間関係の政治的基礎を形成している。
上海の復旦大学国際問題研究所の Wu Xinbo 所長は、変化は10年以上前から起こっていたと述べた。
「保守・右派勢力が日本の政界で支配的な地位を獲得し、この傾向は彼らが政権に復帰して以来(2012年)、
日本の対中政策をますます対立的なもの、場合によっては敵対的なものへと導いて以来、明らかになっている」
と Wu 氏は述べた。
高市氏の師である故安倍晋三氏は、日本の憲法の緩和を主導し、2015年には国会で海外での
軍事行動を可能にする法案を可決した。
今年発表された日本の軍事白書は、中国について繰り返し言及し、近年の人民解放軍による
急速な軍備増強を「日本にとって最大の戦略的課題」と位置付けた。
11月7日、高市氏は日本の国会で台湾について発言し、台湾をめぐる紛争は「存立危機事態」
となる可能性があるため、日本軍が介入する可能性があると述べた。
他の研究者も、日本政府が長年かけて右傾化してきたのだから、
単に圧力をかければ日本が屈服することを期待できるような問題ではないと言っている。
そして、中日間の政府間対話は難しい。
かつて対話を促進していた中国と日本の公明党の友好的な議員連盟など、裏ルートも重要性を
失っている。
香港紙の記事は、上海交通大学日本研究センターの Zheng Zhihua 研究准教授の言葉で締めた。
「中国政府の視点を考えると、今回明確なルールを定めようと決意しているように見える。
これは日本だけでなく、フィリピン、米国、その他の同盟国にもシグナルを送るためだ。
目標は、明確な一線を画し、外部からの干渉を抑止することだ」。
コメント
コメントを投稿