アンワル・イブラヒム著『Rethinking Ourselves』を読んで
アンワル・イブラヒム著『Rethinking Ourselves』を読んで
東南アジア株式新聞 2025年12月6日
マレーシアのアンワル首相が最近、自著を出版した。
タイトル:Rethinking Ourselves(われわれ自身を再考する)
(出版:Penguin Random House SEA、価格:SGD 29.90)
政治家の本というよりは思想家・哲学者の著作にも見える。
正義とは、民主政とは、イスラムの理想政治とは。
著者はそれら考え続けて、一応の視点を獲得しているが、
正義は変化するので考え続けなければならない、との認識も示している。
現時点の私には、内容を正確に紹介することはできないが、
正義の追求者としてのアンワル氏の考えてきたことがよくわかる本だとは言える。
正義を追求する政治家:アンワル氏
アンワル氏は、正義を追求してきた人である。
若い頃、ムスリムの学生運動を組織して1度投獄されている。
1990年代には財務相や副首相まで登りつめたが、解任と投獄を経験した。
(容疑は同性愛疑惑だったが、政治的な理由で追い落とされた説が有力だ。
ネットフリックスの映画 Anwar: The Untold Story では、財界人やマハティール首相から
財務相権限を使って政治的便宜を図ることを頼まれ、毅然と拒否する姿が描かれた。)
その後「レフォルマシ(改革)」を掲げて政治活動を拡大したが、
1999年、有罪判決を受け刑務所入りした。
2004年に判決は覆され、無罪放免となるが、2008年に再度有罪となった。
2015年に再度投獄されたが、2018年に釈放となり、政界に復帰した。
(政界の混乱を収拾するための切り札として、
対立する2陣営から必要とされたため釈放された説がある)
2022年に首相に就任した。人民正義党(PKR)の党首。
Rethinking Ourselves の目次
Rethinking Ourselves の目次を、ざっと日本語にすると以下の通り。
プロローグ:嵐の中心地
1.ポスト植民地時代の苦悩
2.われわれの時代の正義
3.民主政を解放する
4.ウンマ(イスラム共同体)を再検討する
5.無知の円弧
6.われわれ自身を再考する
エピローグ:次の嵐に備える
これだけ見ると、マレーシアのことを書いていると思われるかもしれないが、
中身はもっと広く、かつ深い。
たとえば、2.われわれの時代の正義には、以下のような思想家(の思想)が登場する。
Shayk Daud bin Abdullah Al-Fatami(19世紀のマレーの学者)
この人の祈祷本とコーランの2冊だけが獄中のアンワル氏に所持するのを許されていたそうだ。
トマス・ホッブス、ジョン・ロック、ジェレミー・ベンサム、J.S. ミル、
ジョン・ロールズ、ロバート・ノージック、アマルティア・セン、
道教、孔子、孟子、
その他に、歴史上著名らしいイスラム学者何人か。
そんなわけで、浅学の私の手には負えないので、
アンワル政権のスローガンである「 MADANI」に関する部分だけを紹介する。
アンワル政権のスローガン「MADANI」ができるまで
6.われわれ自身を再考するに、MADANIができるまでの経緯が書かれている。
「首相になる2、3年前から、私は友人・同僚たちと、何をなす必要があるのかを議論し始めた」
激論が交わされたという。
「強い母国」を最優先する人もいれば、「マレー語」の優越を強調する人もいた。
だが、マレーシアは多様な民族で構成されている。
マレー、中華系、インド系、ダヤク、オラン・アスリなど。
マレーシア全体に共有された価値に基づく改革をしていくしかない、という共通認識から
議論を深めた。
その結果をまとめたのが6つの中心的価値 SCRIPT だ。
Sustainability(持続可能性)
Care & Compassion(思いやり)
Respect(尊重)
Innovation(イノベーション)
Prosperity(繁栄)
Trust(信頼)
SCRIPTの6つをマレー語にして頭文字を集めたのが「MADANI」だ。
「このコンセプトの美しさは全体として見たときに明瞭になる。
1つの価値が他の価値につながったり、他の価値の中に存在したりする。
例として繁栄を見てみよう。
繁栄に向けた政策を作ろうと欲するなら、その政策の中に、信頼構築、相互尊重、先進的ケア、
そして持続可能性の概念を入れ込まなければならない」
「これらの価値は、マレーシア式で定義され、マレーシアの多様な伝統と国民の見方を構成する」
「首相府を占拠するとすぐに、私は
SCRIPT/MADANI の枠組みをすべての政府の政策の指導原則として確立した」

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