長期化するタイ・カンボジア国境紛争(2025年12月)【更新】

 

長期化するタイ・カンボジア国境紛争(2025年12月)


10月のASEANサミットに合わせて停戦したはずのタイ・カンボジアの国境紛争が再燃している。

先週、トランプ米大統領やマレーシアのアンワル首相が調停を試みたが、タイが応じなかった。


タイのアヌティン首相は12月12日に議会を解散、来年2月に総選挙の予定となっている。

タイ国軍が独自の判断で戦闘行為を継続している状態だ。


タイとカンボジアのメディアはお互いに相手の国が攻撃してきたと軍発表のような報道をするばかりで、

実態はよく見えない。




12月27日(土)のバンコク発ロイター電:

Thailand and Cambodia sign truce to halt fierce border conflict | Reuters

概要

  • 停戦は土曜日午前5時(GMT)に発効予定

  • 国境での新たな衝突により、少なくとも101人が死亡

  • 両軍は直接連絡を維持 - タイ国防相

  • トランプ大統領が仲介した7月の戦闘停止に向けた前回の停戦



12月27日の発表:

タイ王国とカンボジア王国間の第3回特別一般国境委員会(GBC)共同声明



ASEAN外相会議特別会合(12月22日、クアラルンプール)

外相団としてASEANの中心性へのコミットメントを確認


マレーシア外務省の12月22日の発表:

SPECIAL ASEAN FOREIGN MINISTERS’ MEETING 22 DECEMBER 2025 - Press Releases

マレーシアはASEAN議長国として、カンボジア王国とタイ王国間の現状に対処するため、

2025年12月22日にクアラルンプールにおいてASEAN外相特別会合を開催します。

この特別会合は、マレーシア、カンボジア、タイの3首相による2025年12月11日の決定に基づき開催されます。

この特別会合の議長は、ダトー・スリ・ウタマ・ハジ・モハマド・ビン・ハジ・ハサン外務大臣です。

この会合は、ASEAN外相がカンボジアとタイ間の現状について意見交換を行う場となり、

両ASEAN加盟国及び地域全体の平和と安定のため、緊張緩和と敵対行為の停止に向けた継続的な努力を

支援するためにASEANが講じ得る措置について検討する場となります。

(以下略)


タイとカンボジアの外相が出席したほか、全メンバー国から外相か副外相が出席した。

この外相会議に先立ち、タイ政府は停戦の3条件を発表した。

  • まずカンボジアが停戦を公式に宣言する

  • 停戦は実際に遵守され、継続されなければならない。

  • カンボジアは地雷除去の共同作戦に誠実な協力を示さなければならない



22日夕、ASEAN外相会議特別会合の終了後、以下のような議長国声明が発表された。

外相団としてASEANの中心性へのコミットメントなどで合意したものの、

停戦の具体化については24日に行われるタイ・カンボジアの2国間協議である

国境委員会(GBC)での協議に持ち越された。



ASEAN事務局の12月22日の発表:

ASEAN Chair’s Statement on the Special ASEAN Foreign Ministers’ Meeting 

(以下、全文の日本語訳)

1. ASEAN外相団は、2025年12月11日のマレーシア、カンボジア、タイの首相の決定に基づき、

2025年12月22日にクアラルンプールにおいて、カンボジアとタイ間の現状に対処するための

特別会合を開催した。


2. マレーシアは、アンワル・イブラヒム首相がASEAN議長としてカンボジアとタイ両国に対し

敵対行為の停止を促すために行った努力について会合に報告した。

会合では、ASEANオブザーバーチーム(AOT)のマンデートに基づき、AOTからも報告を受けた。

カンボジアとタイは、それぞれの立場を共有した。


3. 会合は、アンワル・イブラヒム首相とドナルド・J・トランプ大統領の積極的な役割と継続的な

関与、そしてASEAN加盟国と中国の積極的な参加により、現状の平和的解決を促進する上での役割を

評価した。

会合は、フン・マネト首相とアヌティン・チャーンヴィラクル首相が、緊張緩和と事態の

さらなる悪化につながるような誤解の防止に向けてASEAN議長国との交渉を継続する意欲と準備を

示したことで、勇気づけられるものとなった。


4. 会合は、ASEAN憲章に基づき、ASEANの一体性と連帯、そして地域の平和、安全、安定、繁栄の

確保におけるASEANの中心性へのコミットメントを再確認した。


5. 会合は、7月28日の停戦合意、8月7日の特別国境委員会(GBC)会合の決定、

そして2025年10月26日に署名されたクアラルンプール共同宣言を想起し、

カンボジアとタイ両国に対し、これらの宣言を完全かつ効果的に実施するよう強く求めた。


6. 会合は、国境の両側で多数の死傷者、民間インフラの損害、民間人の避難を引き起こしている

継続的な緊張と敵対行為について深刻な懸念を表明し、両当事者に対し、影響を受けた国境地域に

居住する民間人が、妨害されることなく、安全かつ尊厳を保ちながら、敵対行為発生前の住居と

通常の生活に戻ることができるよう確保するよう求めた。


7. 会合は、国連憲章、ASEAN憲章、東南アジア友好協力条約(TAC)に従い、独立、主権、平等、

領土保全、国民のアイデンティティの相互尊重に基づき、地域の平和、安全、安定、繁栄を

促進するため、武力による威嚇又は武力の行使を控え、紛争を平和的に解決し、国境及び国際法を

尊重するという共通のコミットメントを再確認した。


 8. 会合は、カンボジアとタイに対し、最大限の自制を促し、あらゆる形態の敵対行為の停止に向けた

即時の措置を講じるよう求めた。

会合は、両国に対し、相互の信頼関係を回復し、二国間メカニズムやASEAN議長国の斡旋も

活用しつつ対話に復帰し、人道的地雷除去に関する協力を再開し、AOTの監視の下、

両国国境沿いの軍事的緊張緩和を実施し、国際法、平和共存、多国間協力の原則を堅持し、

事態の平和的かつ永続的な解決を目指すよう求めた。


9. ASEAN外相団は、停戦の再開と敵対行為の停止に関する議論を歓迎した。

GBCは、停戦の実施と検証について議論するため2025年12月24日に開催される。

ASEAN外相は、可能な限り早期の敵対行為の緩和への期待を表明した。


10. ASEAN外相団は、この問題に引き続き注力することを約束した。




タイの攻勢でカンボジア側での企業活動に支障

すでに国境地帯での撃ち合いに留まっていない。

軍事力で勝るタイが空軍や海軍まで動かして、カンボジアを攻撃している様子が目立つ。


日本のメディアは、カンボジアの日本企業が操業停止に追い込まれていることを報じている。


読売新聞の12月15日の記事:

日系自動車関連企業、カンボジアの生産拠点を相次いで操業停止に…タイとの国境紛争再燃で : 読売新聞

【バンコク=井戸田崇志】タイとカンボジアの国境紛争の再燃を受け、日系企業がタイとの国境近くにある

カンボジアの生産拠点の操業を相次いで停止している。

カンボジアは自動車産業が集積するタイの補完拠点として日系企業の工場新設が続いているが、

紛争が深刻化すれば、日系企業への影響が広がる可能性がある。

 自動車部品大手、矢崎総業は12日からカンボジア南西部コッコン州の工場の操業を停止している。

13日にタイから同州の海岸に砲弾が発射され、現地当局の呼びかけで従業員が避難。

日本人社員2人は、カンボジアの首都プノンペンに退避した。

 北西部ポイペトでは自動車部品大手、ニッパツが8日午後から工場の操業を停止。再稼働の見通しは

立ってない。

ニデックも10日からモーター部品を製造する工場の操業を停止し、タイの生産拠点での代替生産に向けた

準備を進めている。



日本経済新聞の12月16日の記事:

タイ、カンボジア行きの船を制限 国境紛争で燃料などの輸送禁止 - 日本経済新聞

【バンコク=井上航介、ハノイ=新田祐司】タイ政府は16日、タイ湾での船舶の航行を一部制限すると発表した。

カンボジアに向かうタイ船籍の船舶を対象に燃料などの輸送を禁じる。カンボジアには多数の日本企業も

進出しており、物流への影響が懸念される。



AP通信の12月15日(月)の記事:

Cambodia says Thai bombing is hitting deeper into its territory near shelters for displaced

カンボジア、モンコン・ボレイ(AP通信)

バンコクのAP通信記者グラント・ペックとワサモン・オージャリントがこの報告に貢献した。


― タイとカンボジアの激しい戦闘は月曜日に2週目に突入した。

プノンペンは、タイの爆撃がカンボジア領土の奥深くまで及んでおり、国境沿いの危険地域から既に避難

していた人々の避難所にまで迫っていると主張している。

カンボジア国防省と情報省によると、タイのF-16戦闘機は午前10時過ぎ、オッダーミエンチェイ州と

シェムリアップ州の避難民キャンプ付近に2発の爆弾を投下した。

カンボジア当局によると、シェムリアップのスレイ・スナム地区で発生した爆撃は、

カンボジア領内70キロ(43マイル)以上に位置する橋を狙ったものだった。

同州には、世界的に有名なアンコール・ワット遺跡群があり、ユネスコ世界遺産に登録されている。

記者会見でこの攻撃について問われたタイ空軍報道官のジャッククリット・タマヴィチャイ空軍元帥は、

爆撃があったことを間接的に認めた。

「国際法と交戦規則によれば、軍事目標は国境からの距離に基づいて定義されるものではありません」と

彼は述べた。

「実際には、その施設の軍事利用の特性と目的に基づいて定義されるのです。」

同氏は、タイ空軍は国際法を遵守し民間人を標的にしておらず、

月曜日の作戦は付近のカンボジア民間人に影響を与えなかったと述べた。


APの記事は以下のようなことも書いている。

  • 過去1週間の戦闘で、国境の両側で20人以上が公式に死亡し、50万人以上が避難を余儀なくされた

と報告されている。

  • タイ当局は、カンボジアへの燃料と武器の供給を断とうとしているが、本格的な海上封鎖

については否定している。

  • タイ当局は、紛争地域にある数世紀の歴史を持つタークワイ寺院

(カンボジアではター・クラベイとして知られる)が攻撃によって損壊されたことを暗に

認めたが、カンボジアが同寺院を軍事拠点として利用していると疑っている。




停戦はタイの選挙後か


CNA の12月16日のコメンタリー記事(シンガポールを拠点とするライターのニルマル・ゴーシュ氏):

Commentary: No real shot at border peace until Thai election - CNA

ドナルド・トランプ米大統領は12月12日(金)、タイとカンボジアが新たな停戦に合意したと発表した。

週末まで戦闘が続いたことは、ある意味では米国の影響力の限界を示す教訓と言える。

米国はタイと深く長年にわたる関係を築いている。しかし、高まるナショナリズムに左右される国政、

そしてこの紛争を存亡の危機と捉える政権は、強力な同盟国が及ぼすいかなる影響力も凌駕する可能性がある。

アヌティン・チャーンウィラクル首相は、就任からわずか3カ月余りの金曜日に議会を解散した

。タイは2月8日に総選挙を迎えるが、カンボジアとの紛争により延期される可能性もわずかながらある。

この紛争は、保守系ブムジャイタイ党の党首であるアヌティン氏にとって、強硬な姿勢を見せ、

強力な軍を味方につける絶好の機会となる。


この記事の筆者は、タイの首相アヌティン氏の動向に注目している。

10月26日、トランプ大統領が臨席してクアラルンプールで停戦合意が成立した後、

アヌティン氏には難問が降り掛かった。

「先月タイ南部で170人以上の死者を出した壊滅的な洪水への政府の対応の遅さに対する国民の不満も

その一つだ。

また、タイの政治・警察エリート層が共犯者、あるいは責任があるとみなされている詐欺業界との

つながり疑惑を否定する必要に迫られている。

次期総選挙で有利な布石を打つ中で、ナショナリズムが高まっている状況下では、

アヌティン氏は自制を選ばないかもしれない。」


ここ数日のタイ軍の攻撃でターゲットとなったカンボジア領内のいくつかのカジノ施設については、

すでに米国から犯罪組織との関係を指摘されている場所などを狙っていると言う。

それなら米国や中国から非難されず、それらの組織と関係が深いと言われるカンボジア政界上層部を

弱体化させることができる、という読みだ。


筆者は以下の言葉で文章を終えた。

2月8日まで、危険な数週間が続く。

「誰も妥協する気はない」と、プムジャイタイ党所属ではないタイの政治家は私に語った。

「選挙直前に妥協したら、それで終わりだ」

隣国間の関係を再構築する真のチャンスは、選挙結果が確定した後にしか訪れない可能性が高い。




個人的な経験


私は12月11日から3泊4日でアンコールワットの街、シェムリアップへ観光旅行をした。

目当てはもちろんアンコール遺跡だ。


カンボジア第2の大都市は、国境地帯での戦闘の存在など感じないほど平穏無事だった。

ちょうど現地は乾季でもあり、観光客が多かった。


1つだけ国境紛争に関係するのかと思ったことがあった。

街の中心部から少しだけ離れた、あまり高額ではないホテルに宿泊していたのだが、

「PRESS」と書かれたウィンドブレーカーを着た一団を見かけた。


毎朝、朝食会場で見かけたので、彼らは長期滞在しているのだろう。

外に止められた大型バン2台はプノンペンのナンバープレートだった。

シェムリアップは同国西部の最大都市であり、そこを拠点に西部の国境地帯へ取材へ行っているのだと

想像した。





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