トランプ相互関税に無効判決でも楽観できないASEAN諸国
東南アジア株式新聞 2025年6月1日
トランプ相互関税に無効判決でも楽観できないASEAN諸国
東南アジア諸国は、米国の関税政策の行方が読めず、困惑が広がっている。
日本経済新聞の5月29日の記事:
トランプ関税に差し止め命令 米国際貿易裁判所「大統領権限を逸脱」 - 日本経済新聞
トランプ関税は違憲だとして米国内の中小企業などが起こした訴訟で、
米国際貿易裁判所は28日、トランプ関税の差し止めを命じた。
法律に反しているとして、10日以内に関税を停止するための行政命令を出すようトランプ米政権に命じた。
対象はいわゆるトランプ相互関税であり、自動車・鉄鋼の25%関税は有効なままだ。
トランプ政権側はすぐに控訴し、差し止め命令の執行を止めた。
米国29日には、トランプ政権は15%関税を150日間かけることも検討している、と伝えられた。
トランプ相互関税で高い税率を課される予定のASEAN(東南アジア諸国連合)の国々にとっては、
一見朗報に見える。
カンボジア(49%)、ラオス(48%)、ベトナム(46%)は、15%なら、かなり低くなる。
30%台のインドネシアやタイ、24%のマレーシアにとっても、楽になる。
しかし、ASEAN諸国からは楽観視する声は聞こえてこない。
10%、15%なら良いのではないか?
無効判決が伝わる直前には、マレーシアの対米関税交渉の目標水準が、
関税率10%まで下げることだと報じられた。
The Edge Malaysia の5月27日の記事:
米国の提案した関税を10%に引き下げられれば良い結果だ、大臣が発言
Reducing the US’ proposed tariff to 10% a good outcome, says minister
米国がマレーシアに対する関税を10%のベースラインに引き下げることは前向きな動きと受け止められるだろう
と投資貿易産業大臣ザフルル・アブドゥル・アジズ氏は述べた。
これまで期待されていた関税ゼロは実現不可能かもしれないと認めた。
「公平に言えば、米国も公言しているように、10%という税率は交渉の余地がなく、最低水準のようだ」
と同大臣は火曜日、クアラルンプールで開催された地域首脳会議の合間に
ブルームバーグTVのインタビューで述べた。
10%は名指しでトランプ相互関税の対象となった国以外の最低税率だ。
ASEANでは、シンガポールだけが10%となっている。
そんな状況で、トランプ相互関税の無効判決が伝わったが、
マレーシアを含めASEAN諸国は対米関税交渉(1対1とASEAN対米国)を止める様子はない。
米国関税はすでに経済に打撃
相互関税部分が低くなってもまだ油断できない理由は、
相互関税の高税率が施行猶予されている(10%だけ課されている)現時点でも、
米国関税政策がASEAN諸国の輸出に打撃を与えているためだ。
The Nation Thailan の5月26日の記事:
タイ産業界は「トランプ関税」に身構え、2000億バーツの輸出打撃を予想
タイ工業経済事務局(OIE)は、新たな「トランプ関税」により、
2025年にはタイの工業製品輸出が約2,000億バーツ減少する可能性があるという厳しい警告を発した。
この予測される打撃により、工業GDP成長率は1.02パーセントポイント低下すると見込まれており、
OIEは主要9産業セクターの大規模な再編を加速させる必要があるという。
OIEの当初予想では、2025年の工業GDP成長率を1.5~2.5%。
しかし、この予測は近いうちに下方修正される見込みだ。
インドネシアやマレーシアでも、2025年の経済成長率予想を引き下げる動きが出ている。
また、ASEAN新興国の株式市場の多くは、外国人投資家からの資金流出が多く、
相場が弱くなっている。
マレーシアの The Star の5月31日にの記事(中身はThe Nation/ANN):
タクシン元タイ首相「関税決定にもかかわらず米国との貿易交渉は継続すべき」
タクシン・シナワット元首相は金曜日(5月30日)、
米貿易裁判所が一部関税政策の停止を命じたにもかかわらず、
タイは米国との貿易交渉を進めなければならないと述べた。
タクシン氏が心配しているのは、株式相場の低迷に表れているような、
タイ経済への国内外からの確信低下だ。
「投資家の信頼を回復するためには、これらの問題に迅速に対処する必要がある」
タクシン氏はそう語った。
関連記事:米関税交渉の期限(7/9)目前、東南アジア諸国はわりと楽観
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