米フォーブス(Fobes)誌に大きく掲載されたマレーシアのアンワル首相

東南アジア株式新聞 2024年7月13日

米フォーブス(Fobes)誌に大きく掲載されたマレーシアのアンワル首相


7月11日、米フォーブスは、『Malaysia’s Economic Turn Around Under The Leadership Of Anwar Ibrahim』(アンワル・イブラヒムのリーダーシップによるマレーシアの経済再建)と題した寄稿文を掲載した。

  
アンワル首相のX投稿(2024年7月11日)
アンワル首相はフォーブス誌記事をXへ投稿した

英リーディング大学ヘンリー・ビジネススクールのベンジャミン・レイカー教授による、この寄稿は次のように始まる。


アンワル・イブラヒム氏が2022年11月にマレーシア首相に就任したとき、同氏は世界的なパンデミックによる経済的影響と長年の構造的欠陥に悩まされる任務を引き受けた。


エコノミスト誌が「半世紀にわたる東南アジア政治で最も謎めいた人物」と評するアンワル氏は、この課題を重要な時期に引き継いだ。マレーシアの早すぎる産業空洞化(予想よりも低い所得水準で製造業のGDPと雇用への貢献が減少)は構造的停滞を招いていた。より良い機会を求めて高スキル労働者が海外へ流出したことで、国内の人材プールはさらに枯渇した。これらの脆弱性は、組織的な腐敗と、警戒すべきレベルに達した国家債務の急増によって悪化した。


そして、レイカー教授は、アンワル首相が2年弱の間に実行した改革について説明する。


  • 財政の不備に対処するため、サービス税とキャピタルゲイン税を引き上げた。


  • 賃金の伸びを生産性に合わせるために累進賃金政策 (PWP) を導入した。


  • 財政および財政責任(FRA)法の制定。財政赤字3%、対GDP債務比率60%という目標を掲げた慎重な財政管理を制度化した。


  • 投資を促進するための取り組みとして、政府は外国直接投資(FDI)の承認を迅速化した。


そして課題を語る。


これらの改革はマレーシアとアジア地域全体にとって大きな意味を持つが、課題は依然として残っている。

最近、マレーシアのガソリン補助金の見直しの試みは、週末の州補欠選挙で政府が大敗したことを受けて、潜在的な挫折に​​直面した。スンガイ・バカプの有権者は、投票率が低かったにもかかわらず、イスラム主義野党PASが土曜日に4,200票の大差で北部ペナン州の地方議席を維持したことに不満を表明した。最近の補助金削減に関連する生活費の高騰が原因のこの敗北は、アンワルの経済政策に対する国民の不満を浮き彫りにした。

(中略)

しかし、州議席を失ったものの、アンワル氏の連合は他の場所で勝利を収めた。最近のクアラルンプール選挙では、アンワル連合の民主行動党(DAP)が14,000票を獲得し、3,869票差で勝利した。一方、野党のペリカタン・ナショナル(PN)連合のカイルル・アズハリ・サウトは10,131票しか獲得できなかった。


このことは、この話の2つの側面を浮き彫りにしている。一方では、特定の経済政策に対する不満が、一部の選挙で大きな後退を招いたが、他方では、他の選挙での成功は、アンワル連合が他の分野で依然として大きな支持を維持していることを示唆している。この複雑な結果は、マレーシアの複雑で変化し続ける政治情勢を反映している。



レイカー教授は「ガソリン補助金」と書いているが、アンワル政権は今、燃料補助金の改革を実行している。

6月に小売り用軽油(ディーゼル)の補助金を廃止。ガソリン補助金についても縮小の方向で議論が進められている。

これら燃料補助金の削減が最近の選挙でのアンワル政権や連立与党への支持と不支持を分けている、という見立てだ。


燃料補助金は、車やモーターバイクを普段の足にする人が多いマレーシアでは国民生活にも、あらゆる産業にも、打撃となる。

だが、どの程度の打撃かの程度が人・企業・地域によって異なる。


また、小売り用軽油への補助金の廃止は、以前と価格の変わらない産業用軽油の消費増加や近隣諸国で軽油が値上がりするという珍現象を起こした。政権側は、補助金が目的と違う形で悪用されていたこと、密輸が行われていたこと、の証拠だと指摘している。


マレーシアは、人種・宗教の多様性だけでなく、利害関係の多様性の国でもある。


レイカー教授は最後に、以下のように書いた。

マレーシアが岐路に立つ中、今後数年間はアンワル氏の政治的手腕だけでなく、経済の活力と世界的地位の回復を目指す国の回復力も試されることになるだろう。世界は注目している。マレーシアの歩みは、パンデミック後の復興と構造改革を模索する他の国々にとって前例となるのだろうか。答えはまだ分からないが、一つ確かなことは、アンワル氏のリーダーシップが、この展開する物語の決定的な決定要因となるということだ。



個人的な感想を付け加えたい。


アンワル氏は、1990年代から日本でも国際政治・経済に関心のある人の間では有名だった。

一時は、経済通の政治家として、長く首相を務めたマハティール氏の後継者と目されていた。

同時に、イスラム教的な生き方にこだわる青年団体のリーダーとして、汚職に対して厳しい人としても知られていた(だからこそ、政治家・財界人から警戒され、牢獄生活や政治活動の停止を強いられていた)。


つまり、アンワル氏は、もともと支持する人と苦手意識や嫌悪感を持つ人がはっきりするタイプの政治家だ。

それでも、この2年、政権が崩壊せずに済んでいる、また、マレーシアの景気が良い。

これまでのところ、アンワル政権の経済・財政政策は成功している、と言うしかない。


(このことは、日本と比較すると、はっきりする。本来、やや影が薄く嫌悪感が持たれにくい岸田首相が支持率最低になっているのは、経済・財政政策の失敗による。)





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