マレーシアとタイが BRICS加盟へ、どんな狙いがあるのか?
東南アジア株式新聞 2024年7月30日
前夜の米ダウ下落を受けて、東南アジア株も弱め。
マレーシアとタイが BRICS加盟へ、どんな狙いがあるのか?
タイとマレーシアがBRICSへの加盟手続きを進めている。
タイは6月に、BRICS加盟申請をしたと発表した。
マレーシアも同じ頃に、BRICS加盟の意思を表明した。そして、アンワル首相は7月28日に同国を表敬訪問したラブロフ露外相からBRICS入りへの賛意を得た。
BRICSは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、イラン、エジプト、エチオピア、アラブ首長国連邦からなるグループだ。経済規模は28.5兆ドルを超え、世界経済の約28%を占める。
タイとマレーシアには経済発展に弾みをつけたいという狙いがある。
![]() |
7月28日アンワル首相のX投稿 ロシア外相とBRICS加盟を相談 |
マレーシアとタイの事情
マレーシアにとってBRICS加盟は、経済発展を加速する手段と捉えられている。
それに、国際舞台での発言力向上もメリットだと地元の専門家は見ている。
The New Strait Times の7月29日の記事:BRICS will allow Malaysia to tap into new markets(BRICSはマレーシアに新たな市場への参入を可能にする)で、専門家のコメントを紹介している。
(前略)
マラ工科大学の中小企業開発・起業家アカデミーのコーディネーター、モハマド・イダム・モハメド・ラザク氏は、マレーシアはBRICS内での資源へのアクセス、知識の共有、協力からも恩恵を受けるだろうと述べた。
「協力はマレーシアが従来の市場への依存を減らし、世界的な景気後退の影響を緩和するのに役立つ可能性がある」と同氏はニュー・ストレーツ・タイムズ紙に語った。
(中略)
プトラビジネススクールの経済アナリスト、イダ・モハメッド・ヤシン博士は、マレーシアは、マレーシアと協力関係にある国々から間接的な経済成長を期待できると述べた。
(中略)
ヌサンタラ戦略研究アカデミーの上級研究員アズミ・ハッサン博士は、BRICSはマレーシアが世界の舞台で発言力を高めることを可能にするだろうと述べた。
タイ財界人たちは経済的なメリットを意識している。
主要な貿易相手国である中・印・南アなどへの輸出拡大が期待されている。
タイの The Nation の6月1日の記事:Cabinet gives green light for Thailand to seek BRICS membership(内閣、タイのBRICS加盟申請を承認)では、加盟のメリットを分析している。
(前略)
タイ全国荷主協議会(TNSC)のチャイチャン・チャロエンスク会長は、タイのBRICSグループへの加盟を支持した。同会長は、BRICSはアジア、南アジア、アフリカの国々を含む新興経済国グループであり、タイにとって輸出拡大のチャンスとなると指摘。特に中国とインドは経済大国である。BRICSグループはタイの輸出の約18%を占める。
(中略)
BRICSは、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)に比べて規制が少なく、食品、プラスチックペレット、化学薬品、自動車部品など、タイの強みに沿った商品を輸入する国々のグループとみなされている。これは双方にとってウィンウィンの状況であると考えられている。チャイチャン氏は、脆弱性や非関税措置に対処する必要があると述べた。
CPTPP は、2017年に米国が離脱したTPP(環太平洋パートナーシップ)に代わる貿易協定。マレーシアは参加したが、タイは参加しなかった。
東南アジアの国にとって、中・印が所属するBRICSのほうが、環太平洋と言いながら米国のいないCPTPPよりも利用価値が高い。
長いつきあいのある大市場の中印を重視、米ドル支配からの脱却も
シンガポールからアジア全域をカバーしているCNAの6月20日の記事:Analysis: Why more Southeast Asian countries have signalled interest to join BRICS(分析:なぜ東南アジア諸国がBRICSへの参加に関心を示しているのか)でも、国際経済・政治の専門家の意見を集めている。
シンガポールの南洋理工大学人文社会科学学部長のジョセフ・リオウ博士は、BRICSへの参加に関心を示した国々は、その「集団の潜在力」に惹かれているとCNAに語った。
「これは、彼ら自身の国益の計算の一部であり、世界経済の舞台で選択肢を多様化したいという願望です」と同氏は述べた。
(中略)
インドネシアのシンクタンク、経済法学研究センター(CELIOS)のビマ・ユディスティラ事務局長は、各国は「特に中国とインドによる投資、貿易、インフラ融資の面での協力の可能性に影響を受けている」と述べた。
「ASEAN諸国の大半は、中国とインドを潜在的に昔から馴染みのある市場と見なしている」と同氏は述べた。
(中略)
シンガポールのS・ラジャラトナム国際研究院の上級研究員アラン・チョン博士は、BRICSを「グローバルガバナンスに関する代替リーダーシップ回路」と評した。
マレーシアがBRICSへの参加に関心を示していることを例に挙げ、チョン博士は、それが「(同国の)外交政策を非常に例外的な形で引き上げる手段になる」と述べた。
東南アジア/ASEANの国から見ると、中国に加えインドも身近な大経済圏だ。成長速度が上がってきたインドとの関係強化も重要になっている。
それに、米ドル経済への依存からの脱却もBRICS加盟のメリット、という見方もある。
Free Malaysia Today の7月5日の記事:Renowned US economist understands why Malaysia, Thailand want to join BRICS(著名な米経済学者、マレーシアとタイがBRICS参加を希望する理由に理解を示す)では、ジェフリー・サックス教授の発言を紹介している。
米ドルを使用する他の国に対して特権を乱用している米国がなぜ国際金融システムの支配者でいいられるのか、という疑問があることを教授は指摘した。
「今、他の国々は米国の政策の気まぐれに運命を委ねたくないのです。そして、中国、インド、その他のBRICS諸国と良好な関係を築きたい。だから、マレーシアとタイがBRICSに参加したいと言うのも理解できます。実際、(BRICSへの参加を希望する国は)さらに約30カ国は存在します」
コロンビア大学教授で同大学の持続可能な開発センター所長を務めるサックス氏(69歳)は述べた。
とはいえ、大半の東南アジア諸国にとっては、中国と米国が2大貿易相手国であり、政治的に反米色を強めるわけにもいかない。
その点、BRICSは、今までのところ経済協力にしぼって活動しているため、ドル・ユーロ経済圏以外の経済協力の選択肢であるとも言える。
中国・ロシア・イランなど絶対的な反米国もいるが、インドと中国、イランとアラブ諸国のように、政治的な一枚岩になるのは難しい組み合わせも存在する、という意味で、BRICSは変なグループなのだ。
7月22日に、マレーシアのザフルル貿易産業相は、「マレーシアはBRICSにもOECD(経済協力開発機構)にも加盟を目指している」と地元メディアや自身のXアカウントでコメントした。
マレーシアのBRICS加盟はあくまで経済発展のためであり、今後もバランス外交を堅持する、というアピールだ。
コメント
コメントを投稿