トランプ相互関税発表から一夜明け見えた、ショック・新戦略・漁夫の利期待
東南アジア株式新聞 2025年4月4日
トランプ相互関税発表から一夜明け見えた、ショック・新戦略・漁夫の利期待
東南アジアの多くの国は、トランプ相互関税が予想以上に高い関税率を課してきたことにショックを受けた。
4月3日に日本経済新聞は次のような記事を掲載した。
東南ア、トランプ関税の減免探る タイは農産物輸入拡大 - 日本経済新聞
トランプ米大統領が2日発表した「相互関税」では東南アジアで高い税率を適用される国が目立った。各国は米国に税率の減免など影響の緩和を求める取り組みを続けるとみられる。ディール(取引)を掲げるトランプ氏に響くような切り札は少なくハードルは高い。東南アジアの対米輸出離れにつながれば、中国が漁夫の利を得る可能性はある。
ベトナムは自動車の輸入関税の引き下げを打ち出したほか、タイも米国産農産物の輸入拡大を検討中だ。トランプ氏がめざす貿易赤字の縮小に協力する姿勢を示し、米国から少しでも譲歩を引き出したいとの思惑が透ける。
ここで書かれた通り、東南アジア諸国にとってトランプ大統領とのディール(取引)を成功させるには「切り札は少なくハードルは高い」。
4日の時点で各地から流れてきたニュースを見ても、まだ混乱が続いている様子ばかりで、各国とも対応策を決めきれていない。
東南アジアの、ショックと新戦略と漁夫の利の期待とをまとめた。
インドシナ諸国の受けたショックは大
東南アジアで最も高い関税率を課されたのはインドシナ諸国。カンボジアの49%とベトナムの46%だった。
これらの国にとっては、まもなく、米国で売っている製品の価格が1.5倍にはねあがる。
容易に想像できるように、ベトナムやカンボジアの製品が米国で売れるのは比較的低価格だからだ。
それに米国向け輸出が増えたのは、中国企業が自国への制裁・高率関税を迂回するため、近隣で低コスト生産のできるベトナムなどへ米国向け製品の製造拠点を移したためでもある。
関税を足した結果、価格競争力が落ちれば、ベトナムやカンボジアの経済は大きなダメージを受ける可能性がある。
ベトナムとカンボジアが受けたショックは大きい。
4月4日のハノイ発ロイター電:
ベトナム外務省、米国の関税決定は遺憾
Vietnam foreign ministry says regrets US tariff decision | Reuters
ベトナム外務省は金曜日、米国がベトナムの輸出品に相互関税を課す決定を下したことを遺憾に思うと述べた。
「この決定は両国間の相互に利益のある経済貿易協力の現実にそぐわないと我々は考えている」と外務省報道官ファム・トゥ・ハン氏はロイター通信に語った。
ハン氏は、ベトナムは米国との二国間経済関係の安定的かつ持続可能な発展のための解決策を引き続き模索していくと述べた。
Kumer Times の4月4日の記事:
カンボジアの米国製品への関税はわずか29.4%であって97%ではない:商務大臣
Trade Minister: Cambodia’s tariffs on US goods are only 29.4%, not 97% - Khmer Times
カンボジアに対する米国の衝撃的な関税(カンボジアが米国からの輸入品に97%の関税を課すという想定に基づく)を受けて、カンボジアのチャム・ニムル商務大臣は、カンボジアが米国製品に課す関税は米国のドナルド・トランプ大統領が述べた97%ではなく、29.4%に過ぎないと述べた。
チャム・ニムル氏は2025年4月3日に、カンボジアはWTO加盟国として、WTO加盟国である米国や他の166カ国と同じであると述べた。
同氏は、我々は共通の関税ラインを設定しており、その中でカンボジアは米国や他の貿易相手国からの輸入品に0%から最大35%までの関税を課すという独自の義務を定めていると述べた。
タイはインドと戦略的提携、マレーシア・インドネシアは・・・
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インドのモディ首相のX投稿(4月4日) |
Bangkok Post の4月4日の記事:
タイとインド、モディ首相が Bimstec サミットに出席し関係強化へ
タイとインドは戦略的パートナーシップに署名し、防衛協力と、世界一の人口を抱えるタイと近隣の東南アジアを結ぶ主要インフラ・プロジェクトの加速を約束した。
ペートンタン・シナワット首相は木曜日、首相官邸でナレンドラ・モディ首相と会談した後、記者団に対し、両国は南アジアと東南アジアのつながりを促進する上で重要な役割を果たすことで合意したと語った。両国は、インド北東部から始まり、ミャンマーを通りタイ北部に至る全長1,300キロメートルの高速道路プロジェクトの加速を目指す。
ペートンタン首相によると、タイはまた、太平洋とインド洋を結ぶとされる旗艦陸橋プロジェクトを新たな物流ルートとして提案した。同首相は、タイ政権は、貿易と二国間投資の促進のため、タイおよびASEAN(東南アジア諸国連合)とのインド自由貿易協定の改正に向けた協議も提案したと付け加えた。
Bimstec とは「ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアチブ」のこと。ベンガル湾周辺の7か国による国際組織だ。東南アジアからは、タイトミャンマーが加盟している。
サミット(首脳会議)をバンコクで開催している中での、タイ・インド首脳会談だった。
マレーシアとインドネシア、地域経済の強化を議論
ASEANで指導力が期待されている、東南アジア地域大国のインドネシアとASEAN議長国のマレーシア。
両国はどんなトランプ関税対策を考えているのか。
マレーシアのザフルル投資貿易産業相は4日のX投稿で次のように述べた。
アンワル首相と私は、インドネシアの経済担当調整大臣パク・アイルランガ・ハルタルト氏と重要な会談を行い、地域経済を強化するための戦略について議論しました。
不確実性に満ちた世界環境において、ASEANの統一はもはや選択肢ではなく、必要不可欠なものとなっています。共通の繁栄のために地域経済を強化しましょう。
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ザフルル大臣のX投稿(4月4日) |
シンガポールでは、米中関税戦争の中で、漁夫の利への期待も
CNAの4月3日の記事:
トランプ関税:シンガポール経済は貿易減速で大打撃を受ける可能性があるが、明るい兆しもあるかもしれないとアナリスト
(前略)
潜在的なメリット
ただし、アナリストらは明るい兆しがあると指摘した。シンガポールの製品に対する関税は比較的低いままなので、同国は、重税を課せられている供給業者に代わるものを探している米国の買い手にとって、より魅力的な輸入元として浮上する可能性がある。
シンガポールの対米輸出は減少する可能性があるが、その落ち込みは他のアジアの輸出国ほど深刻ではないだろうと、ユエ氏は述べた。
これにより、米国の輸入のうちシンガポールのシェアがさらに増加する可能性もある。特に、シンガポールの輸出の「相当な割合」が関税を免除されているためだ。
(中略)
ユエ氏は、もう一つの潜在的な利点は、高関税に直面している国を避けるために貿易がシンガポールに迂回される可能性があることだと述べた。
中国の輸出品はかつては米国に出荷される前にベトナムに迂回されていた。ベトナムは現在46%の関税に直面しているため、中国の輸出品はシンガポールに迂回される可能性がある。
(以下略)
記事中「ユエ氏」は、オックスフォード・エコノミクスのエコノミスト、Sheana Yue 氏だ。
この記事ではさらに、シンガポールの金融市場が恩恵を受ける可能性も指摘している。
JPモルガン・アセット・マネジメントのアジア太平洋地域チーフ市場ストラテジスト、タイ・フイ氏は、投資家は関税引き上げが比較的少ない国で投資機会を模索できると述べた。
同氏はオーストラリア、英国、ブラジル、シンガポールを「より好意的に見られる」可能性がある国として挙げた。
トランプ関税は対中国がメインと見られていたため、(すでに主な迂回先であるベトナム以外の)迂回生産先としてマレーシアなど東南アジア工業国が注目されるとの予想があった。しかし、マレーシアも24%関税率を課された。
米国の関税の悪影響を小さくして米国市場で製品を売るには、米国で生産するか、シンガポールなど関税率が最低の国への迂回を検討するしかない事態になっている。
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