政府系ファンド|GIC【更新】
政府系ファンド|GIC
1981年設立のシンガポールの政府系ファンド
GICは、Government of Singapore Investment Corporation の略
シンガポールの外貨準備金を運用
運用益は政府の財政収入の一部となる
具体的な投資先などは公表していない
運用資産額は推定9,360億米ドル(Global SWFの推定)
東南アジア株式新聞 2025年7月25日
2025年3月末の運用成績は実質3.8増、前年より少し低下
GICは7月25日、2024/25年版の年次報告書を発表した。
そのリリース:
Report on the Management of the Government’s Portfolio for the Year 2024/25 | GIC Newsroom
GICポートフォリオは、2025年3月31日までの20年間で、米ドル建て名目年率5.7%の収益率を達成しました。
世界インフレ調整後のGICの同期間における実質年率収益率は3.8%でした。
GICは、キャッシュのイン・アウトの影響をできるだけ取り除き運用成績だけを測定するため、
年率化した20年実質リターンを使っている。
GICの資産配分:
地域別(2025年3月末、%):
投資見通し:不確実性の高まり(Investment Outlook: Elevated Uncertainty)
世界経済のリジリエンス(強靭性)は、高まる不確実性によって試練にさらされています。
年初来、経済政策の不確実性の高まりを背景に、市場のボラティリティは高まっています。
これは、貿易摩擦の激化、中国の景気刺激策の規模をめぐる不透明感、そして不透明な経済環境に対する
中央銀行の対応の変化に特徴づけられます。
さらに、大国間の競争や欧州・中東における紛争の継続など、地政学的な緊張も依然として根強く残っています。
しかしながら、欧州と中国が外部からの脅威の増大に直面して景気刺激策を強化していることや、
AI関連の技術開発が生産性向上を促進する可能性など、明るい兆しも見られます。
全体として、経済の潜在的な成果の範囲は広がっています。
GICは、以下の中期的なダイナミクスを注意点をして挙げている。
米国:関税、移民、政府支出をめぐる政策変更に懸念。ほとんどのシナリオでは、
インフレ率の上昇と景気後退の可能性の高まりが示唆されているが、健全な民間セクターの
バランスシートによって相殺されてている。全体としての不均衡は中程度。
欧州:政策当局は米国の政策による脅威の高まりに対応。例えば、ドイツのインフラ投資
に関する新たな財政計画は、成長を活性化させ、中期的な見通しを改善する上振れの可能性
がある。実施をめぐる不確実性は依然として残っている。
中国:景気刺激策の強化への転換により、下振れリスクは抑制されている。
拡張的な財政スタンスと政策緩和に支えられ、内需の伸びは加速する可能性が高い。不動産セクターも3年間の苦しい調整を経て底入れしつつある。中国のテクノロジーとAIの進歩についても、楽観的な見方がある。
広い視点で見ると、ポピュリズムの台頭によるマクロ的な影響は依然として続いている。
アジア、欧州、ラテンアメリカといった多様な地域で、国民投票を通じた圧力により、指導者たちはポピュリズム的な政策のためにマクロ経済の安定を犠牲にせざるを得なくなっている。政府は、痛みを伴うが必要な構造改革を避けながら、債務を増大させている。市場は政治リスクプレミアムの上昇を織り込み始めている。
ところで、GICは2023年に AI Council を設立して以来、AI(人工知能)を投資業務に組み込んでいる。
今回の報告書で、Building an AI-Enabled GICと題したコラムで取り組みを紹介している。
ケーススタディーとして、バーチャルIC(投資委員会)メンバーとして機能するプロトタイプを
配備しているそうだ。
「取引条件と情報を綿密に検討し、ICのより広範な検討のために適切な質問を提起する」のが
そのAIの仕事だ。
AIのリスク・マネージャーも開発中だとか。
東南アジア株式新聞 2024年7月24日
2024年3月末の運用成績は 3.9%増(前年の4.6%から低下)
GICが7月24日に2023/24年版の年次報告書『GIC Report』を発表した。
2024年3月末時点の運用成績(20年間実質収益の年率)は 3.9%で、23年3月末の4.6%から低下した。
GIC は、運用成績を年換算 20 年間の実質リターンとして報告している
(ポートフォリオからのキャッシュフローの増減の影響を取り除き、運用の効果を測定するため)。
米ドル名目値なら5.8%であり、そう悪くない数字だ。
20年間には2008年世界金融危機を含んでいることを考えれば、なおのことだ。
発表文で、GICは、現在の投資環境を「深刻な不確実性」があると表現した。
具体的には、米国の高金利が長期化する可能性、中国の不動産市場に関連するマクロ経済の課題、
地政学的緊張の高まり、などだ。
安定運用の使命を果たすため、規律と分散を維持するとともに、強みである新たな投資機会
(たとえば気候テクノロジーへの長期で柔軟な資金提供)の獲得に注力する、とGICは述べた。
発表文要約版:
Report on the Management of the Government’s Portfolio for the Year 2023/24 | GIC Newsroom
GIC は、投資環境の大きな不確実性の中で、長期的なパフォーマンスに引き続き注力している。
GIC ポートフォリオは、2024 年 3 月 31 日までの 20 年間で、年率 5.8% の米ドル名目収益率を達成した。
界的なインフレを考慮すると、同じ期間の GIC の年率実質収益率は 3.9% だ。
今日の不確実な状況では、投資家は目的と独自の強みに頼らなければならない。
GIC の場合、その目的であるシンガポールの外貨準備高を長期的に維持および強化することは、
規律と分散を維持することを意味する。
過去数年間、GIC はポートフォリオ全体の回復力を高めるために、はるかに細かいレベルで分散化を進めてきた。
これには、インフラと不動産への投資の強化が含まれる。
さらに、すべての資産クラスの投資チームは、引き続き厳格な価格規律を維持し、
潜在的な投資のリスクとリターンの見通しを慎重に検討して、リスクを引き受ける十分な報酬を確保している。
不安定な状況の中、GIC は自社の強みを生かし、新たな機会をつかんでいる。
例えば、GIC は、グリーンスチールやバッテリーストレージなどの気候技術への資金ギャップを埋めるために、
長期の柔軟な資本を活用する機会を見出している。
こうした分野では、企業は従来の資本の枠に捕らわれていることが多い。
こうした企業は成長するために長期資本を必要とするが、ベンチャーエクイティや成長エクイティには
成熟しすぎており、インフラ資金を引き付ける実績もない。
GIC は今年、プライベート エクイティ部門のサステナビリティ・ソリューション・グループが
気候技術に投資して早期に成功したことを受けて、グリーン資産への投資プログラムを設立した。
GIC Report から、ポートフォリオのアセットミックスを取り出すと、以下の通り。
昨年と比べると、通常の債券を減らし、インフレ連動債とプライベートエクイティ(PE)への配分を増やした。
年次報告書から、「深刻な不確実性」についての記述を引用しておく。
最近のマクロ経済の回復にもかかわらず、世界の投資環境は、複数の要因が重なり、
依然として厳しい状況が続いています。
これには、米国の金融政策が長期化する可能性があること、中国の不動産市場に関連するマクロ経済の課題、
地政学的緊張の高まりが継続していることなどが含まれます。
さらに、多くのリスク資産、特に先進国市場でのバリュエーションが上昇していることを考えると、
中期的なリターンの見通しは依然として低く、リスクとリターンのバランスは不利です。
不確実性が蔓延していることから、予測における謙虚さの重要性が強調され、
予測ではなく準備が重要であるという当社の信念が改めて強調されます。
それなら、どうするか?
投資家にとっての課題は、いくつかの主要市場が、景気サイクルのこの時点で高い成長率を期待し、
非常に前向きな結果を織り込んでいることです。
特に米国と欧州の信用スプレッドは、過去 10 年間で最低の四分位以下またはそれに近い水準にあります。
しかし、市場間および資産クラス内では大きなばらつきがあります。
幅広い市場が厳しい状況にあるにもかかわらず、市場全体で優れた投資機会が残っています。
このばらつきにより、よりボトムアップ的なアプローチと、さまざまな機会へのより機敏な資本配分が有利
になります。
思い切り単純化して言えば、いくつかの主要な市場でピークに近づいており、値下がり局面への転換が近い、または、予想リターンが低下している。そこで、市場や資産クラスを細かく見て、ボトムアップで投資先を探す、と報告書は言っている。
GICのポートフォリオの中で、PEへの期待が高まっている印象だ。
コメント
コメントを投稿