ASEAN首脳会議2025議長国 マレーシアが得たもの

 

ASEAN首脳会議2025議長国 マレーシアが得たもの

東南アジア株式新聞 2025年10月28日


ASEAN首脳会議(10月26日)に並行して様々な国際会議が開かれた。

トランプ米大統領や中国の李強首相、日本の高市首相らが来訪したことで、

マレーシアの首都クアラルンプールが世界中の関心を集める外交の舞台となった。


多数の国際会議の主催者となる傍らで、マレーシアは多くの二国間協議もこなした。

ASEANの結束固め以外に、マレーシアは何を得たのか。



米国と貿易協定、議論を呼ぶ内容


マレーシアは米国との貿易協定を締結した。

アンワル首相とトランプ大統領は満面の笑みで署名していた。


U.S. Mission to Asean の10月26日の発表:

アメリカ合衆国とマレーシア間の相互貿易に関する協定


Section 1. Tariffs and Quotas

1. マレーシアは、米国原産品に対し、附属書I付表1に定める関税率を適用する。

2. 米国は、マレーシア原産品に対し、附属書I付表2に定める改訂された相互関税率を適用する。


附属書を見ると、

マレーシアは米国産品に対する関税について、品目により完全撤廃か大幅引き下げを約束している。

米国側のマレーシア産品に対する関税は「19%を超えない」としている。


ここまではすでに発表されている通りで、いかにもマレーシア側に不利だ。


協定には、「いずれの当事者も、本契約のいずれかの条項について合理的な修正を求めることができる。

他方の当事者は、かかる修正を誠意をもって検討するものとする。

両当事者は、書面により本契約を修正することに合意することができる」と書かれており、

アンワル首相らは「適切なタイミングで再交渉する」と言っている。


他にも議論を呼ぶ内容が盛り込まれた。


Section 3. Digital Trade and Technology

3条3:デジタル貿易協定

マレーシアは、米国の重要な利益を危うくする新たなデジタル貿易協定を他国と締結する前に、米国と協議しなければならない。


Section 5. Economic and National Security

第5条1項:補完的措置

2. マレーシアは、自国の国内法及び規則に従い、マレーシアの管轄区域内で事業を展開する第三国が所有又は支配する企業による不公正な慣行であって、以下のものに対処するための措置を採択し、実施するものとする。

(a) 米国への市場価格を下回る物品の輸出。

(b) 米国への当該物品の輸出増加

(c) マレーシアへの米国輸出の減少

(d) 第三国市場への米国輸出の減少


Section 6. Commercial Considerations and Opportunities

第6条1項:投資

1. マレーシアは、中央政府レベルにおいて、自国の法令に従い、重要鉱物、エネルギー資源、発電、電気通信、運輸、インフラサービスを含む分野における米国による投資を円滑にし、促進するものとする。


Section 6 の「重要鉱物(critical minerals)」は、レアアースのことだ。


米国との貿易合意について、

アンワル政権側は、マレーシアの対米輸出が最小限の制限で済んだことで、

マレーシア産業を守ることができたとアピールしている。

たとえば、投資貿易産業大臣のザフルル・アブドゥル・アジズ氏は、

米国へのマレーシアの輸出品最大1,711品目が19%未満の関税を享受できるとメディアに語った。

ベルナマ通信の10月26日の記事


デジタル貿易協定などがマレーシアの主権への侵害では、との意見もある。

ザフルル大臣は、「強制されているのではなく、協議するということ」と主張した。

Malay Mail の10月26日の記事


政権側は、米国と協議しながら産業育成することで、デジタル製品の対米輸出がしやすくなると

見ているようだ。



日本の新首相と首脳会談


日本の外務省の10月26日の発表:

日・マレーシア首脳会談

  1. 冒頭、アンワル首相は、高市総理によるASEAN関連首脳会議への参加を歓迎し、

両国の友好関係の更なる発展に向けて、高市総理と協力していきたい旨述べました。

これに対し、高市総理から、ASEAN議長国を務めるマレーシアの尽力に敬意を表するとともに、

自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現にとっても重要な包括的・戦略的パートナーである

マレーシアとの協力を様々な分野で一層強化したい旨述べました。

  1. 両首脳は、安全保障分野での協力に関し、政府安全保障能力強化支援(OSA)を通じて、

日本からマレーシアに対し、無人航空機(UAV)と救難艇を引き渡したほか、新たに潜水作業支援船等の

供与に合意したことを歓迎しました。

高市総理から、こうした取組を通じて地域の平和と安定に貢献していきたい旨述べたところ、

アンワル首相から日本の協力への謝意が示されました。
経済分野に関し、両首脳は、両国間で、二酸化炭素回収・貯留(CCS)やアンモニア発電、

原子力等脱炭素協力が進展していることを高く評価し、今後も二国間クレジット制度(JCM)の

早期署名に向けた協議を加速し、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の取組を強化していくこと

で一致しました。

また、LNGの安定供給やレアアース、AIといった経済安全保障分野でも連携を一層強化していくことを

確認しました。

  1. 両首脳は、南シナ海情勢、ミャンマー情勢、中東情勢等地域・国際社会の諸課題について議論しました。

高市総理から、カンボジア・タイ間の停戦合意におけるアンワル首相の取組に敬意を表し、

日本としても停戦を後押しするべく、マレーシアに停戦監視用機材の供与を決定したことを伝達しました。


マレーシアでの報道では、OSAでの協力、パレスチナ支援の意思表明などが記事になっていた。

両国の経済関係は良好であるため、その他の問題に関心が向いている面もあるだろう。




韓国とFTA


マレーシアMITIの10月27日の発表:

マレーシア・韓国FTA交渉完了についての共同声明

マレーシアと大韓民国(韓国)は、マレーシア・韓国自由貿易協定(MKFTA)交渉の終結を発表する共同声明に

署名しました。

この共同声明は、クアラルンプールで開催された第47回ASEAN首脳会議の場で、

マレーシアの投資貿易産業大臣であるザフルル・アジズ閣下と、

韓国の貿易産業資源省貿易大臣であるヨ・ハング閣下によって署名されました。

MKFTAは、物品、サービス、投資、通関手続きの円滑化、衛生植物検疫、デジタル貿易、グリーンエコノミー、

バイオエコノミー、そして経済協力を網羅しています。

経済協力と能力構築に関する章は引き続き最重要であり、

このFTAにおいてマレーシアにとって主要な焦点となります。

本協定は発効後、マレーシアにとって戦略的輸出関心の高い様々な製品への長期的な無税アクセスを

保証するものであり、食品・農業分野、ハーブ製品・抽出物、パーム油・カカオ製品を含む一次産品、

化学・石油化学製品、熱帯木材・合板などが対象となります。


投資貿易産業大臣のザフルル・アジズ氏のコメント:

「マレーシアは、既存の二国間貿易関係の規模の大きさを踏まえ、韓国との二国間自由貿易協定(FTA)を

時宜を得たものと捉えています。

産業開発、貿易、投資の分野で、韓国と緊密な協力関係を築く機会は数多くあると考えています。

また、グリーン経済、デジタル、バイオ経済といった他の分野についても検討を進めており、これにより、

様々なステークホルダーにとって両国のFTAの価値が高まると確信しています。

また、マレーシア・韓国自由貿易協定(MKFTA)が両国の中小企業や大企業にとって有益なものとなることを

期待しています」




カナダ


The Star の10月27日の記事:

Canada, Malaysia strengthen energy ties: Key investments discussed in bilateral meeting | The Star

10月27日(月)、アンワル・イブラヒム首相とマーク・カーニーカナダ首相は、当地で二国間会談を行い、

液化天然ガス(LNG)、石油、原子力、再生可能エネルギーへの投資について協議しました。

「カーニー首相は、2025年のASEAN議長国としてのマレーシア首相のリーダーシップに感謝の意を表し、

液化天然ガス(LNG)、石油、原子力、再生可能エネルギーへの投資拡大に向けてカナダとマレーシアの間で

署名された意向書について協議しました」と、

カーニー首相が第47回ASEAN首脳会議及び関連首脳会議に出席した後、カナダ政府は声明で述べました。




南アフリカ


New Straits Times の10月25日の記事:

[UPDATED]: Malaysia, South Africa agree to strengthen bilateral cooperation across multiple sectors


マレーシアと南アフリカは、南アフリカのマタメラ・シリル・ラマポーザ大統領の公式訪問を受け、

幅広い分野における二国間協力の活性化と強化に合意した。

第47回ASEAN首脳会議に合わせて10月24日から27日まで行われた今回の訪問は、

ラマポーザ大統領が2018年に大統領に就任して以来、初のマレーシア公式訪問となった。

大統領は金曜日、プトラジャヤのペルダナ広場でアンワル・イブラヒム首相の出迎えを受け、公式歓迎を受けた。

(中略)

首脳らは、二国間関係の活性化の重要性を認識し、貿易・投資、ハラール産業、農業、防衛、

科学技術・イノベーション、教育、観光・文化、運輸、能力構築といった主要分野における

協力強化へのコミットメントを表明しました」と声明は述べている。




このほか、カナダの首相、オーストラリアの首相、ブラジルの大統領らがマレーシアを訪問し、

アンワル首相らと会談を持った。

これら各国首脳は、主にマレーシアやASEANとの経済協力の強化について話した。






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