マレーシアで会社員をしている日本人向け資産形成のアイデア(2025年版)
マレーシアで会社員をしている日本人向け資産形成のアイデア
EPF活用が最善
東南アジア株式新聞 2025年10月5日
以下は、会社の同僚向けに最近書いたコラムを少し書き直したものです。
たまに投資について質問があるため、4回連続で書いてみました。
マレーシアで会社員をしている日本人向けの資産形成(貯蓄・投資)の1つのアイデアです。
中心メッセージは、
マレーシアで長く働く予定ならEPF(Employment Provident Fund)を活用するのがよい、ですが、
その他のことも書いています。
ユニット・トラストを買ってみた
私がマレーシアで初めて投資したユニット・トラスト「◯◯ アジア・インカム・ファンド」が、
先月ようやくプラスに転じた。
投資額を100 とすると 100.4 くらいになった。
今年2月に投資したので、半年以上 100 を下回っていたことになる。
ユニット・トラストは(日本の)投資信託と同じ種類の個人向けファンドだ。
インカム・ファンドの名前の通り、基本的に債券からインカム(利子収入からの配当)を集める
ファンドなので、マイナスになっているのは一見奇妙に見える。
それは(投資信託と同様に)毎月、手数料を取られる仕組みになっているためだ。
私が利用している銀行の証券口座は表面上は手数料を取らないが、
銀行はファンド運用会社からキックバックを受け取っている。
その分も含めて運用会社は運用管理手数料を毎月取る。
そんなわけで、初期には毎月「1 ユニットに割り当てられる投資リターンの累積 < 手数料」
となって、100 を下回る。
逆に、100.4は「割り当てられる投資リターン の累積 > 手数料」、
つまり、毎月の手数料に負けないくらいの累積額になったということ。
今後は少しずつ増えていくと期待している。
インカム・ファンドはその性格上、長く投資すればほぼ勝てるが、大きく勝つことはない。
そんなファンドを買った理由は、
マレーシアの銀行の Fixed Deposit 金利が(12ヶ月固定にした場合でも)3%を下回ることに
なったためだ。
7月にマレーシア中央銀行が利下げ(政策金利は今2.75%)したので、
しばらく銀行預金の金利は低くなる。
(政策金利0.5%、銀行の10年定期預金でも年1%未満の、日本よりは十分に高いけれども)
マレーシアでは上場株式やユニット・トラストの譲渡益(売買益)は非課税だ。
最後に売って、いくら儲かっても税はかからない。
配当も少額のうちは非課税だ(年間10万リンギを超えると課税される)。
日本では譲渡益・配当収入とも課税対象(20%くらい)で、NISA枠内だけ非課税となっている。
一般論として、マレーシアに居住しているうちに投資収益を稼ぐのは節税になる、とは言える。
(投資をしろとお勧めしているわけではない)
マレーシアで長期に会社員をする予定なら、EPFに最大限入れるのが最善
前回の記事の読者から「3%未満でも定期預金がよいのでは」と質問があった。
私の回答「マレーシアに今後も長くいるつもりなら、EPFに最大限入れるのが最善です。
私はいつまでいられるか不明なため、いろいろ模索しています」。
そんな回答をしたからには、少し説明する必要があるだろう。
EPF=Employee Provident Fund(従業員の退職準備ファンド)。
マレーシア国籍の会社員の場合、59歳まで拠出するのが義務。希望すれば75歳まで拠出可能だ。
55歳から全額いつでも引き出せる。
御存知の通り、EPFは、
10月からマレーシア企業で働く外国人従業員も加入が義務となった(11月に拠出開始)。
デフォルトで月給(基本給)の2%拠出(これに会社が2%拠出)。
手続きすれば拠出を11%まで増やせるが、追加分には会社の拠出はない(マレーシア国民にはある)。
EPFに最大限入れるのが最善である理由
まず、EPFは非課税。
それに運用成績が良い。
EPFの運用・資産配分:株式50%弱と債券50%弱、残りは不動産など。
これは、日本の国民年金ファンドGPIFとほぼ同じだ。
GPIFの運用・資産配分:株式50%弱(国内・外国で半々)と債券50%弱(国内・外国で半々)、
残りは不動産などオルタナティブ資産。
実際、EPFの運用成績は結構良い。
今年3月の発表によると、
2024年の成績:株式が9.90%、債券が4.27%。
これに基づき分配率を決定した。標準型6.3%、シャリア型6.3%。
ここ数年の分配率を見ると、
2023年: 5.50% (標準型)、5.40% (シャリア型)
2022年: 5.35% (標準型)、4.75% (シャリア型)
2021年: 6.10% (標準型)、5.65% (シャリア型)
2020年: 5.20% (標準型)、4.90% (シャリア型)
さらに、強制貯蓄型のEPFは、勝手に複利効果を実現してくれる。
長期の資産形成にとって複利効果を狙う投資は大変重要だ。
毎年3%のリターンを上乗せできると仮定。
100が1年後に103になる。
問題は2年目以降。
100だけ再投資するのが単利。103を再投資するのが複利。
2年終了時、単利は103、複利は103×1.03=106.09
つまり、複利だと100、103、106、109と増えていく。
これに新しい拠出金が加わるのでさらに増加速度が早い。
毎年100足すとする。
(1年目)100、(2年目)103+100=203、(3年目)215+100=315、・・・
EPFに拠出しているだけでかなり速い速度で増える。
自分で投資する場合も、複利効果と積立は意識しなければならないが、
EPFに最大限入れておけば、ぼさっとしていても大丈夫だ。
EPFの運用から学べること
債券(主にインカムゲイン狙い)と株式(主にキャピタルゲイン狙い)を半々
日本では、「貯蓄から投資へ」という金融庁のスローガンなど、貯蓄と投資を区別することが多い。
しかし、個人が将来のためにお金を増やすという意味ではあまり区別する意味はない。
投資と言うときは、予定の結果を得られないリスクがあるという意味を含めているだけのことだ。
上で、マレーシアに長期滞在するつもりの人はEPFに最大限拠出するのが最善と言ったが、
余裕資金でもっと貯蓄・投資をする人もいるだろう。
その場合でも、EPF(や日本のGPIF)から学べることがある。
年金ファンドは、大きな儲けがなくとも許されるが、大きなマイナスは許されない。
EPF運用で採用されている、債券と株式で約50%ずつというのは堅実ポートフォリオと考えて良い
のではないか。
EPFの、昨年の分配率6%台の背後には、債券3%台、株式11%台のリターンがあった。
債券で3%を確実に稼ぎ、株式で上を狙ったところ、合計で6%になった感じだ。
債券と株式は、言い換えると、
「主にインカムゲインを狙う金融商品」と「主にキャピタルゲインを狙う金融商品」。
インカムゲイン=金利や配当・分配金からの収入
キャピタルゲイン=値上がり益・売買益
個人の場合、インカム狙いの債券側は、銀行預金でも構わない(金利の良いところを狙う必要はある)。
そうすると、残りの金額の株式だけを心配すれば良いことになる。
インカム側が銀行預金ではつまらない場合、リート(REIT=不動産投資信託)という手もある。
リートは、収益不動産に投資するファンド。
賃料収入から維持費などを抜いて、年2回ほど分配金を出す。
分配金利回りは、日本のJ-REITが4%台、シンガポールS-REITが5~6%台だ。
分配金が変動する、良い銘柄を選ばなければならない、という心配はある。
とにかく「主にインカムゲインを狙う金融商品」と「主にキャピタルゲインを狙う金融商品」で半分ずつは、使える考え方だと思う。
若い世代には株式比率を高めることを勧める証券会社もあるが、失敗しても誰も責任を取ってくれるわけではないので、自分の好きな比率で構わない。
株式側(主にキャピタルゲイン狙い)はまず全世界ファンド
3週間ほど前、スリアKLCCの紀伊國屋書店で変な本を見つけて、思わず買ってしまった。
『地球の歩き方 オルカン』という本だ。
オルカンとは、全世界株式(オール・カントリー)の投資信託だ。
(世界47カ国・地域の株に投資している)
長期・積立投資に向いているため、日本のNISA利用者の中でベストセラーになった。
なぜ、この投資信託が株式ファンドの中でベストセラーになったのか?
それは、世界中の株式銘柄に投資しているため、以下の特徴があるからだ。
世界経済の成長を反映する
分散効果が効いている
個人がお金を増やすための株式投資には、(株価変動は仕方がないにしても)長期的には順調に
値上がりしてほしい、という期待があるだろう。
ごく短期で見れば日本株が強いとしても、長期的には確信が持てない。日本経済の成長力が弱いためだ。
しかし、世界全体なら着実な成長を期待できる。
だから、世界株のファンドを選ぶ。
価格変動リスクを減らすための単純な方法が分散投資だ。
できるだけ多くの銘柄に投資すると、価格の上下変動がばらけて、
個別銘柄の値下がりの影響を小さくできる。
オルカンの参照指数「MSCI ACWI」の年率の期待リターンは約10%、リスク(標準偏差)は約14%だ。
(詳しい説明は省くが、リスクが小さい数字であるほど期待リターンの近辺に結果が出る可能性が高い)
日本で売られている世界株ファンド(投資信託・ETF)は多い。
その中でオルカンの信託報酬(管理手数料)が最低水準なのがベストセラーになった要因だ。
長期・積立の株式投資の場合、一番最初に世界株ファンドを持つのは理にかなっている。
私が今使っている証券口座からだと、米国上場かシンガポール上場の世界株ETFなどが候補になる。
オルカンと同じ参照指数のETFがいくつもある。類似の世界株指数のファンドも入れると選択肢はかなり多い。
ところで、冒頭の『地球の歩き方 オルカン』は直接的には旅行の役に立たない。
ただ、47カ国・地域を紹介しているので、この国・こんな街があるのかなどと発見する楽しさは少しある
(マレーシアの説明も2ページある)。
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