企業研究|サプラ・エナジー(Sapura Energy Berhad、Bursa:5218)

 

東南アジア株式新聞 2025年3月18日

企業研究|サプラ・エナジー(Sapura Energy Berhad、Bursa:5218)

  • マレーシアの石油・ガス関連の総合サービス会社

  • 1975年に設立されたサプラ・テレコムズ(Sapura Telecommunications Berhad)が前身

  • 2012年に、Kencana Petroleum Berhadとの合併により、現在の会社に

  • ペトロナスなどから仕事受け、探鉱・生産、エンジニアリング・建設、および操業・保守を行う

  • 2010年代後半から経営難が続いている

  • 政府系ファンドPNBが40%所有の大株主

  
サプラ・エナジー株の5年間(2025年3月18日、Bursa公式サイトより)
サプラ・エナジー株の5年間(Bursa公式サイトより)



政府の「投資」という呼び名の救済策で一息つく

最近、マレーシアのメディアはサプラ・エナジーについて騒いでいる。

同社は経営難が続き、借金未払いで、マレーシアの石油・ガス業界の多くの事業者を悩ませてきた。

3月11日に政府系MDHが「投資する」と言うニュースが伝わり、債権者たちは安堵、株価は上昇した。


だが、政府系機関以外だれも投資や融資をしないような企業がいつまで生き残れるのか。

地元マレーシアのメディアでも、そんな意見が報じられている。


日本でも自力で生きていけるのか怪しい企業(東京電力など)に政府が支援し続けている例はあるが、どこの国でも、経営難の会社は一度法的整理をしたほうが産業界の企業ガバナンスに対する意識を高めるのに役立つ。

サプラ・エナジーが、政府の誤判断の事例とならなければよいが。



3月11日の発表:

マレーシアの石油・ガスのベンダーSEBが返済資金として最大11億リンギットの投資を確保

https://disclosure.bursamalaysia.com/FileAccess/apbursaweb/download?id=156237&name=EA_GA_ATTACHMENTS

サプラ・エナジー・ベルハド(SEB)の取締役会は本日、マレーシア・デベロップメント・ホールディングス(Malaysia Development Holding Sdn Bhd(MDH)と条件付き資金調達契約(CFA)を締結した、と発表した。

MDHは償還可能な転換社債(RCLS)を額面価値最大11億リンギットまで当社に提供します。

この投資は、SEBの財務再編の取り組みにおける画期的な出来事であり、長期的な持続可能性のコミットメントを強化した。


財務大臣の特別目的会社であるMDHは、この契約の目的を、SEBグループがマレーシア国内で事業を展開するマレーシアのサービスプロバイダーに対して負っている債務決済または支払いに限定した。

マレーシアの石油・ガス業界を支援することを意図している。

この資金援助は、構築に何年もかかった、マレーシアの石油・ガスエコシステムにおけるベンダーの財務安定性を回復するための重要な一歩となる、


これをきっかけに、現地メディアはサプラ・エナジーのニュースを連日流すようになった。


The Edge Malaysia の3月12日の記事:

サプラ・エナジーの株価は政府の11億リンギット注入後に上昇、BIMB証券は希望の光を見る

Sapura Energy shares up after govt RM1.1b injection, BIMB Securities sees glimmer of hope

経営難に陥っていた石油・ガスサービス会社サプラ・エナジーBhd(KL:SAPNRG)が政府から10億リンギットを超える救済措置を確保したことを受け、同社の株価は3カ月以上ぶりの高値に上昇した。

BIMB証券のアナリスト、アジム・ファリス・アブ・ラヒム氏はエッジ紙に、投資サイクルの好転により業界が小休止している時期にこのライフラインは極めて重要だと語った。債務再編計画が承認され、追加資金も確保されたことから、同社の回復の道筋は明確になったと同氏は述べた。

(中略)

サプラ・エナジー株は水曜日に、2024年11月以来の高値である4.5センまで上昇した。株価は正午休憩中に4セントで止まり、同社の時価総額は7億3500万リンギットとなった。


負債を抱える同社は水曜日、財務省が一定の条件の下で11億リンギット相当の償還可能転換社債株式を引き受けることに同意したと発表した。

この資金は、サプラ・エナジーがベンダーに負っている債務の返済にのみ充てられる予定だ。



政府は、単なる救済ではなく「投資」の側面を強調している。


The Edge Malaysia の3月13日の記事:

サプラ・エナジー、11億リンギットの資本注入の前提条件として追加のデューデリジェンスを実施へ — 首相

Sapura Energy to undergo additional due diligence as precondition for RM1.1b capital injection — PM

ダトゥク・スリ・アンワル・イブラヒム首相によると、資金難に陥っているサプラ・エナジー社(KL:SAPNRG)は、政府による11億リンギットの資本注入と再編の前提条件として、追加のデューデリジェンス手続きを受ける予定だ。


同氏は、デューデリジェンスの調査結果は証券委員会などの関係執行機関と共有され、いずれかの当事者に対して何らかの措置を講じる必要があるかどうかが判断されるだろうと述べた。


財務大臣を兼務するアンワル氏は、この取り組みは、108億リンギットの負債と15億リンギットの未払い貿易請求書に対処することを目指した同社の実務指針17の再編の一環として完了した監査プロセスに加えて行われるものであると述べた。



アンワル首相や同政権の閣僚は「救済ではない」と強調している。

だが、今どきクーポン2%で巨額の資金を貸すことを「投資」と呼ぶのはきわめて難しい。

今のマレーシアなら、安全性の高い投資でも3%〜5%のリターンがある。


サプラにはすでに政府の支援が入っており、大株主は政府系投資会社ペルモダラン・ナショナル社(PNB)であり、そのトップはアンワル首相だ。

また、マレーシア流の政府の都合で特定の会社を保護する例に見られても仕方がないだろう。



一方で、サプラ・エナジーから仕事を受けているベンダーたちは政府支援を歓迎しているのは事実だ。


The Star の3月15日の記事(中身は国営ベルナマ通信):

政府によるサプラ・エナジーへの11億リンギット投資は「希望の光」だとベンダーら

Govt's RM1.1bil investment injection into Sapura Energy a 'beacon of hope', say vendors | The Star

政府によるサプラ・エナジー社(SEB)への11億リンギットの投資は、約1,000万リンギット超に上る未払い金による深刻なキャッシュフローの課題に取り組んでいるベンダーにとって重要なライフラインであり、地元の石油・ガス・エコシステムに待望の推進力をもたらすものである。


この記事では、サプラに債権を持つ取引業者たち数人の声を拾っている。


キーフィールド・インターナショナル社のCEOモハメド・エルワン・アフマド氏はベルナマ通信に対し、未払い債務が同社に深刻なキャッシュフロー問題を引き起こしたと語った。主な原因は、新型コロナウイルス感染症の流行がピークを迎えていた2021年後半にSEBからの支払いが滞ったことだ。

「支払い義務を果たさなければならず、大変でした。しかし、私たちは歯を食いしばって頑張り、人員削減に頼らなくて済んだことを嬉しく思っています」

「そして、この支払い不履行のせいでプロジェクトが遅れないように、なんとかやりくりしなければならなかった」と彼は語った。

彼は、関与した金額が膨大で、影響を受けたベンダーの数が多いことを考慮すると、SEBへの政府の介入は時宜を得たものであり、ベンダーの存続のために必要であったと信じている。

「(今回の資金注入により)サプライチェーン全体において待望の信頼が回復されるだろう。すべてのサプライヤーはSEBと協力し、地元の石油・ガス産業の発展に貢献し続けるだろう」と同氏は付け加えた。


キーフィールド・インターナショナルは、石油・ガス開発に関連する船舶のサービス会社だ。


サプラ・エナジーの債権者は貸した金が戻るため、歓迎するのは当然だ。

サプラ・エナジーとの取引で今後も稼げると思っているなら、なおのことだろう。


マレーシア内では、別の見方もある。


The Edge Malaysiaの3月17日の記事;

別の見方: サプラ・エナジー: 次々とお金を無駄にした例

Alternative Views: Sapura Energy: A case of throwing good money after bad

(前略)

Sapura Energy Bhd (KL:SAPNRG) は、基礎が弱い企業にさらに資金を投入しても問題が解決しないという例です。同社の財務状況は、債権者が債務再編計画を承認したことと政府からの11億リンギットの注入により大きく改善しているが、新規契約に入札できるほど強力ではない。


ペトロナスのブミプトラ所有企業優遇政策のおかげで国内石油・ガス(O&G)産業の覇者だった旧サプラ・エナジーが元の姿に戻る可能性は低い。銀行やベンダーは、支払いを受けられないことを恐れて、取引する前に何度も考えるだろう。


政府が、わずか2%のクーポンを支払う転換社債の形で11億リンギットを注入する理由は、ブミプトラが大多数を占める企業であるベンダーを救済するためである。時間が経つにつれて、別のブミプトラ石油・ガス業界のリーダーが出現し、ベンダーが同じ問題に直面する可能性がある。


地元の石油・ガス業界の企業は甘やかされている。ほとんどの契約は、ブミプトラが過半数を所有し、資産に投資している企業に与えられる。



この記事によると、サプラ・エナジーは2014年6月の石油危機以来ずっと、経営を安定させるのに苦労しているという。

PNBは、2018年9月に割当増資を引き受け26億7000万リンギットを支払った。サプラの最大の債権者がPNBの優良投資先メイバンクだったため、サプラ救済策と見られた。


また、その頃まで、サプラの経営陣にはマハティール元首相の息子などブミプトラ(マレーシア原住民)系の産業界で有力な人物が参加していたとも書いている。





12月12日の発表:

2024年10月末までの2025年度第3四半期(同社の会計年度は1月末までの1年間)業績

Quarterly rpt on consolidated results for the financial period ended 31 Oct 2024

https://www.bursamalaysia.com/market_information/announcements/company_announcement/announcement_details?ann_id=3508561



 

四半期

3四半期の累計

31 Oct 2024

31 Oct 2023

31 Oct 2024

31 Oct 2023

MYR'000

MYR'000

MYR'000

MYR'000

収益

1,152,896

1,103,933

3,537,871

3,198,816

税引き前損益

-261,160

63,025

-250,873

300,959

当期損益

-286,050

31,793

-342,960

213,178

発表資料より作成


10月末までの四半期(2025年度第3四半期)で、前年との対比を見ると、この会社の業績不振がよくわかる。

税引き前利益で見ると、前年は6300万リンギットの利益を出していたのに、2025年度第3四半期は2億6100万リンギット(約222億5500万円)の赤字になっている。




コメント

このブログの人気の投稿

建設途上で破産したニセコ高級ホテル La Plume、アジア系資本とは

2025年 ASEAN議長国としてのマレーシア

ペイシャンス・キャピタル・グループ(Patience Capital Group)、妙高でリゾート開発を進めるシンガポールの投資会社